変形性股関節症(OA)治療法
(2)手術療法
関節鏡視下手術(内視鏡)
多くの場合、変形性股関節症に対して最初に用いられる外科的な治療法は、関節鏡視下手術となります。この検査では、関節内部の異常を観察して、診断を行うと同時に、治療も行います。一般的な関節鏡視下手術では、小さなカメラを股関節の内部に挿入して、特定された異常に対する治療を行います。関節鏡視下手術の際によく実施される処置としては、以下のものがあげられます。
- 傷んだ軟骨を切り取る
- 股関節の内部にはがれ落ちた組織の破片を取り除く
- 股関節の内部に液体を流して洗浄する
骨切り術 / 棚形成術(たなけいせいじゅつ)
患者さん自身の骨を残して手術する方法で、股関節の痛みを解消することを目的として行われます。骨の一部を切り取って関節の構造を変化させることで、寛骨臼(かんこくきゅう:股関節のソケット部分)と大腿骨頭(だいたいこっとう:股関節のボール部分)の位置関係を改善させます。骨を削って形を整えたり、骨の一部を切除したりすることで、荷重が加わる関節面の位置関係を再調整します。
手術にはいくつか方法があり、骨盤側では自分の骨盤の骨を移植して臼蓋の屋根の部分をつくる棚形成術、寛骨(かんこつ)の一部を切って回転させる寛骨臼回転骨切り術、臼蓋の上で骨盤を水平に切って横にずらすキアリー骨盤骨切(こつばんこつき)り術があります。一方、大腿骨側では内反骨切り術、外反骨切り術があります。症状の程度によって、最適な方法を選択します。
内固定術
骨が丈夫で、大腿骨への血液供給が正常な患者さんが股関節骨折を起こした場合には、内固定術と呼ばれる修復法を使用します。この手術では、折れた骨の両端を元の位置に並べて、小さな金属製の器具でしっかりと固定します。折れた大腿骨を元に戻して位置関係を再調整すると、そのままの状態にしておく場合よりも骨折の治りが早くなります。
人工股関節置換術 THA あるいはTHR; total hip arthroplasty (replacement)
変形性股関節症によって変形した関節を人工の関節に置き換える手術です。痛みの原因になる部位を手術で取り除くため、関節症が進んだ時期でも疼痛の改善に大きな効果があります。二足歩行をする私たちの股関節には、日ごろ体重の数倍にもあたる力がかかっています。これは歩行時には3倍、椅子からの立ち上がりで6~7倍、床からの立ち上がりで10倍とされています。変形性股関節症の進行を抑制するためには、股関節に無理な負担をかけない工夫も大切です。たとえば、ベッド・椅子・洋式トイレといった洋式の生活に変える、激しい運動や立ち仕事などはなるべく避ける、杖を使うようにするなどです。 これらは予防にも役立ちます。
人工股関節置換術が必要になる目安
症状が軽い場合は、薬物療法や運動療法など、体への負担が少ない療法で症状を和らげることが優先されます。ただ、症状がかなり進行しており、これらの保存療法で十分な効果が得られなくなった場合には、痛みを和らげ通常の活動を取り戻すための手段として、人工股関節置換術の検討が必要になります。特に、股関節の痛みが強すぎるあまり、やりたいことや日常生活が困難になっているのであれば、手術を検討する時期といえるでしょう。
人工股関節置換術を検討すべき目安としては、以下のようなものがあげられます。
- 普段より多く関節を使うと痛みが出る
- 思いどおりに動けなくなった、歩けなくなった
- 痛みのためによく眠れない
- 体を一定時間動かさずに休めていると、関節が固くなる
- 湿っぽい天気の日に痛みが強くなる
- 痛みが持続している、あるいは再発する
- 運動中や運動後に関節が痛む
- 薬剤や杖を使用するだけでは痛みを十分に和らげることができない
- 関節の動きが悪くなっている、あるいは曲げられる角度が小さくなったように感じる
- 関節が固くなっている、あるいは腫れている
- 歩いたり階段を上ったりするのが困難になった
- 椅子に座る、椅子から立つ、浴槽に入る、浴槽から出るなどの動作が困難になった
- 朝に関節がこわばり、その内に治まる
- 関節がきしむような感じがする
- 過去に関節に外傷を負ったことがある
このような症状があらわれてきたら、股関節の手術を受けるべきかどうか、いつ手術を受けるべきか、受けるならどの手術方法が最も適しているかなど、医師と詳しく話し合って下さい。なお、感染症がみられる場合、骨の量が不十分な場合、骨に人工股関節を支えられるだけの強度がない場合などは、人工股関節置換術が適切でないと判断されることもあります。