専門医インタビュー
肩が痛くて受診をしたけれどなかなか改善が見られない経験はありませんか?肩にある腱板は損傷していても検査で見逃されているケースがあります。肩の痛みが続く場合には、肩の専門医へ相談することが大切です。尼崎総合医療センターの猪坂直義先生に、肩の痛みの原因や治療法についてうかがいました。
肩関節のしくみ
肩関節は、腕の骨である上腕骨(じょうわんこつ)と背中の骨である肩甲骨(けんこうこつ)から構成されています。上腕骨の先端は上腕骨頭(こっとう)といってボールのような形状をしています。一方、肩甲骨は肩甲骨関節窩(か)といって受け皿のような形状をしていて、上腕骨頭と肩甲骨関節窩が組み合わさることで肩を動かすことができます。関節面は骨同士が当たらないよう軟骨(なんこつ)で覆われています。関節の周りには関節包(ほう)があり、その内側には関節をスムーズに動かすための滑膜(かつまく)があります。
肩甲骨と上腕骨をつなぐ筋肉である腱板(けんばん)は、腕を上げるなどの動作に欠かせない組織です。また関節唇(しん)は、肩甲骨関節窩を取り囲むように付いている吸盤のような組織で、腕を上下左右に動かす際に安定性を保つ役割りを果たしています。
骨や筋肉などの組織が協調することにより上腕骨頭(ボール)の中心と肩甲骨関節窩(お皿)の中心が合わさっている状態を「求心位」(きゅうしんい)と呼びます。求心位が保たれることで、人は腕を上げたり回したりすることができるのです。ところが、何らかの原因によりこの求心位が崩れると、肩の痛みや違和感、動かしづらさを感じることがあります。
中高年の場合は、「腱板や関節唇の加齢性変化」と「姿勢の悪化による肩甲骨の位置のずれ」が大きな原因と考えられます。腱板や関節唇などの組織は弾性繊維でできていますが、加齢により弾力がなくなってしまうと、一部が損傷したり機能不全になったりすることがあります。場合によっては、過去の転倒や交通事故がきっかけで損傷が進むことも少なくありません。姿勢の悪化は、例えば胸椎や腰椎の圧迫骨折などで背中が曲がり前かがみの姿勢になると肩甲骨が外側にずれてしまいます。これらが原因で求心位が保てなくなると痛みや動かしづらさが生じます。また滑膜に炎症が生じ、組織が癒着して肩が硬くなってしまうこともあります。そのほか、転倒などによる骨折(上腕骨近位端(きんいたん)骨折)により肩が痛むことがあります。
日常生活の中で肩の痛みや違和感、動かしづらさがあれば一度整形外科に相談されることをお勧めします。はっきりとした原因が思いつかなくても、加齢により組織の変性が少しずつ進行している場合があります。また転倒や交通事故など原因が思いつく場合は、骨折などが起きている可能性がありますから早めに受診されるといいでしょう。早い段階で治療を進めることで、手術以外の方法で改善がみられることも多くあります。
すでにクリニックなどで診察と治療を受けたけれどなかなか症状が改善されない方は、別の原因が考えられるかもしれません。骨折をして治療を受けたけれど痛みが残っているという方も、骨折部分は治っていても周りの組織が原因で痛みが生じている可能性があります。腱板損傷や関節唇損傷などの状態はMRI検査で発見することができますから、肩の専門医に診てもらい原因を突き止めることが大切です。
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