専門医インタビュー
軟骨の代わりをするポリエチレンの一例
人工股関節置換術とは、変形して傷んだ関節の表面を取り除き、金属やポリエチレン、セラミックなどでできた人工股関節に置き換える手術です。近年は人工関節が進化し、色々な種類の中から個々の患者さんの症状や関節の状態に応じた人工関節が選べるようになっています。中でもポリエチレンの進化は目覚ましく、放射線を当てたり、添加物を加えて改善することで、非常に摩耗しにくくなりました。そのため、ポリエチレンの摩耗粉が原因で起こる人工関節のゆるみも起きにくくなり、より長期の耐久性が期待できるようになっています。
とくに筋肉と靭帯を切らないMIS(最小侵襲手術)のOCM(側臥位(そくがい)前側方進入術)やALS(仰臥位(ぎょうがい)前側方進入術)というアプローチ法で行うことで、術後に脱臼することがほとんどなくなりました。また、OCMやALSは傷つける組織が少ないため、患者さんの身体への負担が軽く、術後の痛みも少ないのが特徴です。さらに、麻酔科医が手術時に硬膜外ブロックや神経ブロックを行って痛みが出やすい手術翌日や翌々日の疼痛をコントロールすることで、多くの方が手術翌日から独歩が可能になっています。患者さんには「手術をしたら本当に歩けるようになるんだろうか」という不安がありますから、翌日からリハビリを始められることは大きな安心感につながっているようです。
ポータブルナビゲーション
まずは、直近に撮影したCT画像のデータから構築した3Dテンプレートで術前計画を立て、患者さんそれぞれに適した人工股関節の設置位置や設置角度を設計します。100点の設計図でないと100点を目指した手術は行えませんから、1ミリ、1度にまでこだわって設計図を組み立てます。ポータブルナビゲーションを使用することもありますが、ALSであお向けで手術を行えば、設計図通りに人工股関節が設置できているかを、リアルタイムにレントゲンで確認しながら行うことができるため、ポータブルナビゲーションを使わなくても、精度の高い人工股関節置換術を行うことが可能です。
一般的な合併症としては、脱臼、感染症、血栓症などがあります。脱臼はアプローチ法を工夫することで、発症はかなり抑えられます。感染に対しては、効率的にマニュアル化した手技で、医師や看護師が手際よく短時間で手術を行うことや、適正な抗菌薬を投与することで軽減が図れます。血栓症対策としては、フットポンプ、早期離床、抗凝固薬が効果的ですが、OCMやALSなどで筋肉や靭帯を温存する場合は、翌日には歩行が可能となり、血流が滞ることがないので、大きな血栓はほとんど見られなくなっています。
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