専門医インタビュー
手術の様子
人工膝関節置換術は日本で年間約7万件も行われている手術で、高齢化社会の到来と共に、すでに一般的な治療法になっています。もちろん、医療費は公的医療保険が適用されますし、 さらに高額療養費制度(年齢や所得に応じて、1カ月間に負担する医療費の上限が定められており、これを超える分が保険から支給される制度)の対象にもなります。保険適用後の自己負担額は数10万円ですが、ここから高額療養費制度を利用し、自己負担額は1カ月あたり、おおよそ約4万円から18万円程度になります。この自己負担額は、年齢や所得に応じて定められており、例えば70 歳以上で所得区分が一般の場合、高額療養費制度により負担は4 万4400 円(1カ月あたり)となります。詳しくは、加入している保険証の団体などへお問い合わせください。
術後のX線(正面および側面)
人工膝関節置換術とは、損傷した膝関節を取り除き、金属やプラスチック製の人工関節に置き換える手術です。手術時間は2時間程度で、手術の成功率は非常に高く安定しています。手術後は2〜3週間で退院できます。また、変形が改善されることで、足がまっすぐになる、入院期間が短いという特長もあります。
人工関節の耐用年数は、この20年ぐらいの間に大きく上がりました。現在は、おおよそ20~30年はもつといわれています。耐用年数が伸びたことで、これまでは70歳以上の患者さんを中心に手術を行っていたましたが、徐々に若年化しており、60代の患者さんでも手術するようになってきています。リウマチの場合は、40代で手術する場合もあります。また、年齢の上限は特に設けてはおりません。昔は、90歳だともういいかとあきらめていましたが、最近は90歳でも元気な人が多いので、手術を望む方もいらっしゃいます。手術はやはり大ごとであるため、私にとっても患者さんにとっても、一生に一度の手術にしたいと思って臨んでいます。
なお、手術にはリスクがつきまといます。中でも、合併症は気をつけなければなりません。起こる割合としては1%以下ですが、手術の際に、患部に細菌が入ると、感染を起こすことがあります。感染が起きると、一般的に、患部の腫れ、痛み、発熱といった症状が伴います。
MISによる手術の傷
MISとは、一般的に最小侵襲手術と呼ばれる手術方法の総称です。人工関節に限らず、あらゆる手術にもMISはありますが、人工関節の手術について使用されることが多いですね。従来、人工関節の手術は整形外科手術の中でも最大の侵襲を伴う手術でした。それを最小の侵襲で行うことで、できるだけ患者さんへの負担を少なくしようとしました。以前の手術は正確に行うことが主眼であり、大きな侵襲で安全に行うものでした。しかし、だんだん技術が高まってくると、それ程大きく切らなくても安全に手術可能な手術方法が開発されてきました。
具体的には、開く傷を小さめにして、できる限り、内部の筋肉を切らずに、損傷している悪い部分にだけアプローチします。通常の置換手術は患部の皮膚を20センチほど切って人工関節に置き換えますが、MISでは10〜12センチに抑えます。 これによって手術後の傷跡が小さくなるのはもちろん、筋肉への損傷も最小限にとどめられるので手術後の痛みも軽減され、早期にリハビリを始めるのも可能になります。筋肉が温存されるMISは年齢的・体力的に手術後の回復に時間がかかる高齢者には特に適しているといえるでしょう。
人工膝関節単顆置換術
症状が軽度の場合、内側だけの損傷で、外側の骨が保たれていることがあります。このようなケースでは、以前は全置換していましたが、今では損傷のある片側だけ置換すればよいと考えられています。耐久性や力学的なものを考えても全置換のほうが安定していますが、侵襲を考えると片側置換の方が傷は小さくてすみます。一方で、20~30年後を考えると、片側置換の場合、もう一回手術しなければならない場合もあります。その辺の兼ね合いで判断します。
また、以前は片足を置換手術してリハビリしてから、もう片方の悪い膝の手術とリハビリを行っていましたが、今では、両側同時に置換手術も行います。手術もリハビリも一度で済むので、その方が患者さんにとっても負担が少ないと思います。当院では、1人で手術を行うため、施術時間は4時間ほどです。このような選択は、手術の技術が上がってきていることと、人工関節はもとより、手術で使われる器具自体の改良もあるからできることです。
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