専門医インタビュー
東京都
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変形した股関節の臼蓋表面をきれいに削り取って受皿を取りつけ、大腿骨頭を人工の物に置き換え、ボールとソケットですべすべ動くようになるのが人工股関節置換術です。
変形性股関節症が進行してくると、左右の脚の長さが違ったり、痛みをかばって体重をかけなくなるので筋肉が衰えてしまうことがあります。人工股関節にすることで、関節の痛みと足の長さを補正することができても、筋力低下はリハビリテーションすることで回復します。手術の前に、筋力があまり落ちていなければ術後の回復は早いのですが、かなり筋肉の力が落ちてしまってからだと、痛みがなくなり脚の長さがそろったにもかかわらず、体が揺れてうまく歩けないということになりがちです。また可動域の改善は、術前の動きが悪すぎるとあまり期待できません。人工股関節置換術は、動きが悪すぎたり筋力がすっかり失われてしまう前に行うほうがいいと考えています。
また今の人工股関節は耐用年数が伸びて、以前のように65歳以上でないと出来ないということはなくなりました。
最近は40代後半でも、機種を厳選して人工股関節置換術を行うケースも増えています。レントゲン画像で、軟骨がなくなり痛みが強くて日常生活の支障が著明である場合は、人工股関節置換術を行う目安だと思います。
3次元的な術前計画
人工股関節置換術を行うことが決まったら、一人ひとりの術前計画を綿密に立てます。レントゲンによる股関節の2次元画像に加えて、CTを撮り、PC上の術前計画ソフトで3次元的にインプラントのサイズや挿入角度や設置位置、骨との接触程度などを確認し、手術シミュレーションを綿密に行います。そのうえで年齢、骨質、大腿骨の形態、可動域など、個々の要素にあった機種を選択します。
金属アレルギーの有無を調べ、動く面に金属を用いないなどの対応もします。
患者さん自身がどの要素を重視するかによっても、違ってきます。さらに、手術後に、普通に歩けるだけでいいのか、テニスやゴルフ、マラソンなどのスポーツもしたいのか、そういう術後の活動性も関係します。暦年齢だけで判断するのではありません。
人工股関節の一例
最近よくいわれている低侵襲手術ですが、私がこだわっているのは筋肉を切らない、出血を少なくする、合併症を起こさない、骨をできるだけ多く残すということです。
筋肉を切らず、出血量を減らす対策をとっているので、術後の輸血の可能性がほとんどないだけでなく、術後の腫れや貧血が起きるのが少ないです。さらに術前の末梢神経ブロックなどを用い、手術に伴う痛みの対策もしっかり行うようにし、術後に静脈から鎮痛剤を投与し術後すぐにリハビリが行えるようにしています。
また人工股関節で特に避けたいことの一つが、脱臼だと思います。後方から入るアプローチだと脱臼しやすいといわれていますが、私は、前側方(側臥位)によるアプローチで行っています。このアプローチだと、筋肉を切らずに、後方の軟部組織を温存し関節包も修復できているので、人工股関節を患者さんにあった角度に設置すれば、脱臼しにくいのです。また、人工股関節の材料・デザインの改善などにより骨頭径を大きくできるので可動域も良くなり、従来よりも脱臼しにくくなっています。
今、主に使っている人工股関節の機種は短いタイプのもので、生理的な荷重伝達が得られるので、体重が乗った時に生じる骨の反応が、長い機種よりも、出にくいのです。骨反応が出にくいということは、人工股関節が長持ちする可能性が高いということになります。もし再置換をしなくてはならなくなったとしても、短いほうが正常な骨が十分に残っているので入れ直しの際に固定性が得られやすいです。
当院では、人工股関節置換術を行う症例の4分の1が、両側同時で行われています。臼蓋形成不全は両方の股関節
に起こっている場合も多いし、片方だけを治療しても、もう片脚の長さとのバランスが悪くなってしまいます。両側同時手術のメリットは、両方の脚の長さをそろえ、痛みがない状態にすることです。さらに、全身麻酔を一回で済ませることもできます。
両側同時に行っても、入院期間が2倍になることはありません。当院では片方で2週間以内、両側同時手術だと3週間以内の入院です。人工股関節置換術は、保険適用で高額医療の申請も可能な手術ですので、医療費は2倍になりません。身体に与える影響は片方の倍ですが、低侵襲手術になるようにしているので、体への負担は少ないです。
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