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専門医インタビュー

高位脛骨骨切り術について教えてください

  • 竹内 良平 先生
  • 横浜石心会病院 関節外科センター センター長
  • 045-581-1417

神奈川県

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関節外科センター センター長

この記事の目次

日本人にはO脚が多く、変形性膝関節症の一因といわれています。その治療法のひとつとして、O脚変形を矯正することで痛みを緩和する手術があることをご存じですか?ひざ関節疾患の治療を専門とされている、竹内良平先生に伺いました。

ひざの内側が痛む場合、どのような原因が考えられますか?

まず考えられるのは、ひざ関節の痛みの原因である、変形性膝関節症でしょう。その他にひざの裏側にくっついている内側(ないそく)ハムストリングスという筋肉のすねの骨への付着部に痛みがある場合、あるいはひざのお皿が外側にずれているところが痛む場合など、痛みは広範囲に渡ります。変形性膝関節症の初期症状としては、膝を曲げたり伸ばしたり、座った位置から立ち上がるときや歩き初めが痛いということもあります。また、横向きで寝ているときにひざ同士がぶつかって痛いということもあります。変形性膝関節症の原因は、遺伝、加齢、体重、骨格、外傷、ホルモンバランス、環境や風土などさまざまです。最近言われはじめたことは、骨粗鬆症の関連です。加齢そのものが原因ではありませんが、若い人よりも高齢者の方が多く、何かのきっかけで痛みが生じて膝の動きが制限され、それからずっと続くというケースが多いですね。

そして変形性膝関節症がある程度進行している患者さんは軟骨が消失しているだけでなく、半月板断裂を伴っている場合が多いです。半月板が切れた状態を放置して変形性膝関節症が悪化するのか、変形性膝関節症が起こって半月板が脆弱化(ぜいじゃくか)して切れるのか、
どちらが先かはわかりません。
また、O脚もひざの内側の痛みと大きく関わっています。

なぜO脚になってしまうのでしょうか。O脚を防ぐことや治すことはできますか。

そもそも日本人は生まれつきの骨格の問題や遺伝的要素からO脚の人が多く、変形性膝関節症の一つの原因になっています。O脚だとひざ関節の内側の軟骨や半月板に負荷がかかりやすく、どんどん摩耗してすり減ってしまうわけです。軟骨も半月板も遺伝的に強い人と弱い人がいますので個人差はありますが、さらに進行すると軟骨の下の骨まですり減らします。削れた微粒子が関節を包む膜の表面の滑膜を刺激して炎症を起こすので、かなりの痛みがあります。

ひざの内側に負荷がかかるような重労働や重い荷物を抱えての山登りなども、軟骨や半月板の変性を起こしやすくし、O脚と変形性膝関節症を悪化させる一因といえます。
骨粗しょう症の場合、ひざの内側で微小な骨折が起こってO脚が進んでいくという説もあります。ひざの内側の痛みを改善するには、ひざの内側にストレスが集中しないようにすることが第一です。体重が重いほど負荷がかかりますから、体重を減らしたり、重労働や登山など、ひざの内側に負荷がかかることは避けたほうがよいでしょう。しかしすでに痛みが生じている場合は、医師の診断のうえ、適切な治療が必要となります。
また、骨が成長しきっていない幼児の場合は別として、大人の骨の変形によるO脚では、手術以外の方法で矯正することは残念ながらできません。

O脚やひざの内側の痛みを治す治療法を教えてください。

レントゲンや場合によってはMRIを撮り、程度が軽いようならまず筋トレや痛み止めの処方、ヒアルロン酸の注射などの保存療法を行います。ただ痛み止めの薬で胃潰瘍を起こしたり、また脳の中枢神経に働きかける痛み止めの場合は吐き気がして飲めなかったりすることがあります。また薬や注射で痛みが一時的に軽くなることで動き過ぎて、かえって病状が悪化する場合もあります。

保存療法を約3カ月続けても改善されない場合は、外科的治療を検討するべきと思います。漫然と薬と注射を続けるうちにどんどん悪化することもありますので、患者さん側もこの「3カ月」をひとつの目安にしてご自身で判断していただければと思います。

ひざ関節や関節の外側部分の損傷もひどい場合に行う外科的治療法では、人工関節置換術がよく知られていますね。文字通り、傷んだ関節を人工関節に置き換える手術です。術後には「痛みがなくなった」と、多くの患者さんが喜ばれています。

そしてもし、軟骨の外側の状態がよく、他にもいくつかの条件をクリアした場合には、高位脛骨骨切り術(HTO)という方法もあります。

高位脛骨骨切り術について詳しく教えてください。

すねの骨(脛骨)の内側に切り込みを入れてくさび形の人工骨を挟み込み、O脚をややX脚にして、ひざの内側にかかりすぎている重心を外側に移動する手術です。実は日本では、これまであまり注目されていない治療法でした。術後、痛みが取れるまでに2〜3カ月かかり、入院期間も長いという理由からです。しかしここ10年ほどで徐々に、この治療法が注目されるようになりました。

この手術の大きなメリットは、自分のひざが温存されることでしょう。歯の治療でいえば、入れ歯や差し歯ではなく、自分の歯を治療したり、歯列矯正したりするのと似ています。自分の関節ですから、正座などもスムーズに行える例もあります。

手術は、出っ張った骨を削ったり切れた半月板を整えたりしてから、内側からすねの骨に切り込みを入れて開き、人工骨を挿入します。最近使われているβ-TCP(ベーターティーシーピー)という人工骨は、吸収されて3〜5年で自分の骨になるんですよ。骨を形成する骨芽細胞が人工骨の孔の中に侵入し、骨を作ると同時に人工骨を吸収するという仕組みです。それを骨との親和性がよいチタンプレートとボルトで固定します。チタンはMRI検査の際にも問題がない素材です。高齢者に多い骨粗しょう症の方でも問題ありません。チタンプレートとボルトは手術後約1年で体内から取り出しますが、ボルトで開いた穴は自然と埋まりますので心配ありません。

手術の所要時間は、関節鏡を含めて片ひざで約1時間半。全身麻酔の時間も入れてトータル3時間ほどです。骨を切っているので、歩いたり体重がかかったりすると痛みますが、翌日には曲げることができ、約3カ月で骨がくっついて完全に痛みが引くと、そこからは普通の生活に戻れます。入院期間も以前より短縮されて、2〜3週間が目安になりますし、自分で歩いて退院できます。リハビリは、筋力トレーニングや関節の曲げ伸ばしなど、ご自身で行っていただきます。プレートを外す手術は40分ほど。翌日には歩けて、翌々日には退院できます。


【膝関節】高位脛骨骨切り術を受ける前のようす


【膝関節】高位脛骨骨切り術を受けた後のようす1


【膝関節】高位脛骨骨切り術を受けた後のようす2



どのような人でも高位脛骨骨切り術を受けることができますか?

さきほどもお話しましたが、変形性膝関節症には進行度合いがあります。内側がかなり傷んで半月板や軟骨がなくなり、骨が露出してえぐれてしまうまで進むと、いくら外側がよい状態でも厳しいです。人工関節にしたほうが症状は改善されます。また患者さんの考え方やライフスタイルにもよります。自分のひざを温存させたいから早く骨切り術をするという選択もあれば、ギリギリまで(痛みが我慢できなくなるまで)ひざを使って、仕事をリタイアしたり、スポーツをやめたりしたら人工関節にするという選択もあります。「忙しくて暇がない」「手術は絶対にイヤ」という方もいらっしゃいますし、そういう患者さんには、「どうしてもガマンできなくなったらしましょうね」といいます。年齢も考慮します。

また高位脛骨骨切り術は、喫煙者、とくにヘビースモーカーには注意が必要です。正式なデータはまだ出揃っていませんが、これまでの経験においても、喫煙者の骨は中々くっつかないのです。ある論文によると5〜10%がくっつかないというデータもあります*。タバコに含まれるニコチンが骨の再生を抑制し、一酸化炭素によって新しい骨の新生血管がつぶれるのではないかと思われます。わたしの患者さんには3カ月間完全禁煙していただいてから手術を行っています。

いずれにしても医師としては、患者さんの状態に応じてもっとも適した処置を行います。ただ「もっと早く受診してくだされば、ほかの選択肢があったのに」という場合も残念ながらあります。ぜひ早めの受診をおすすめします。

そのほかに注意することはありますか。

ひざ関節のためには、体重をできるだけ減らし、大腿四頭筋を鍛えることが有効です。またひざの裏の筋肉が硬くなり、足を伸ばして座ったときにひざの裏が床につかない状態だと、変形性膝関節症の手術はしにくくなります。ストレッチしてやわらかさを保っておきましょう。運動は水中ウォーキングや水泳がよいですね。ただし平泳ぎはひざの内側がぶつかるので避けます。エアロビクスはひざに負担がかかり、変形性膝関節症だと進行する場合があります。ジョギングなど陸上の運動もひざのためにはよくありません。ひざに問題がなければ適度なウォーキングはよいですが、症状があるなら無理はしないでください。

*Reference

1.Jon Karlsson ; Quit smoking and reduce surgical complications
Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, March 2011, Volume 19, Issue 3, pp 331-332

2.Gebhart Meidinger, Andreas B. Imhoff, Jochen Paul, Chlodwig Kirchhoff, Martin Sauerschnig, Stefan Hinterwimmer ; May smokers and overweight patients be treated with a medial open-wedge HTO? Risk factors for non-union Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, March 2011, Volume 19, Issue 3, pp 333-339

3. R.Takeuchi et al. Simultaneous Bilateral Opening-Wedge High Tibial Osteotomy with Early Full Weight-Bearing Exercise. Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, 16: 1030-1037, 2008.

4. R.Takeuchi et al. Medial opening wedge high tibial osteotomy with early full weight bearing. Arthroscopy 25: 46-53, 2009.

5. R. Takeuchi et al. Clinical results and radiological evaluation of Opening Wedge High Tibial Osteotomy for Spontane Osteonecrosis of the Knee. Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, 25: 46-53, 2009.

6. H. Bito, R. Takeuchi,et al. A predictive factor for acquiring an ideal lower limb alignment after opening wedge high tibial osteotomy. Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, 17: 382-389, 2009.

7. H. Bito, R. Takeuchi,et al. Opening wedge high tibial osteotomy affects both the lateral patellar tilt and patellar height. Knee Surgery, Sports Traumatology,Arthroscopy, 18(7): 955-960, 2010.

8. Takeuchi R, et al. Fractures Around the Lateral Cortical Hinge Following a Medial Opening Wedge High Tibial Osteotomy: a New Classification of Lateral Cortex Fracture, Arthroscopy, 2011, (in press)


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