専門医インタビュー
患者さんの年齢や進行程度、関節の形などによって手術方法を決定しますが、比較的若く変形も軽度の人には「骨切り術」を行います。これは自分の骨を切って股関節の形を矯正し、痛みを改善させる手術なので、術後の状態が良ければ一生そのまま過ごせる可能性があります。ただし、生身の自分の骨を切って行う手術であるがゆえに、状態が安定するまでにはどうしても時間がかかってしまい、入院期間は約1ヵ月~2ヵ月必要で社会復帰も遅れることになります。これに対し、変形が進み症状も強い場合には、悪くなった関節を取り除き人工関節に置き換える「人工股関節置換術」は、素材や技術の進歩によってどんどん術後の回復が早くなっており、入院期間は約1週間~2週間です。骨切り術と比べ入院期間も短いことから、若い人でも「長期間仕事を休めない」、「子供の世話があるから」といった理由で、人工股関節置換術を選択されるケースも増えています。手術時間は多くの場合約1時間で、片脚だけの手術ではほとんどの場合、輸血の必要もありません。ご本人の希望があれば両側同日に手術する場合もありますが、この場合は出血も多いため、自己血を事前に貯血して使用します。両側の場合、手術時間は片側の倍の約2時間かかりますが、入院期間は片側とほぼ同じです。当院では、70代以下で全身状態に問題のない比較的体力のある人に行っています。
手術前には、CTデータを利用したコンピュータによる3次元での術前計画(3Dテンプレート)を必ずたてます。レントゲンによる2次元の計画と異なり、全ての角度から立体的に検討できるため、患者さん一人ひとりの骨の形やねじれ具合が手術前に詳細にわかります。そのため、個々の患者さんに適正な人工関節のサイズや種類を選択することが可能になっています。さらに、実際に人工関節を設置した状態もシミュレーションできるため、術後の可動域も事前にわかり、どういう状態で人工股関節を入れれば骨同士がぶつからないかを手術前に判断することもできます。術後に骨やインプラント同士が衝突(インピンジメント)したり外れたりすると、軟骨の役割を果たすポリエチレン製のライナーが損傷し、人工股関節の入れ替えが必要になることもあります。患者さんが人工関節を長持ちさせ、術後の生活を快適に過ごすためには、この3D術前計画は非常に有用だと思いますね。当院では人工股関節置換術の全例に3D術前計画を適用しています。
3次元術前計画(モニター)と立体骨モデル(手前)
手術が非常に難しいと考えられるケースには、CTデータを基に3Dプリンタを使用して実物大の立体骨モデルを作製することもあります。これを使えば、患者さん一人ひとりの骨と全く同じものを目の前にして触ることもできますし、手術前に実際に骨盤側の臼蓋をくりぬいて人工股関節のボール部分をはめてみることも可能です。手術の際は台の上に立体モデルを置いて執刀するのですが、骨のでっぱりや凹みなど、細かいところまでまったく同じ状態の骨がみえてきます。立体骨モデルの作製は高度先進医療の対象になるため、今のところ保険はききません。しかしどんな複雑な手術でも、骨を削る場所や削る量、人工関節を設置する正確な位置や角度が事前にわかりますから、医師も手術に確信を持ち安心して臨むことができます。複雑な症例の患者さんには、大変有用な治療法だといえるでしょう。手術が安全確実に行えるだけでなく手術時間の短縮にもなるので、患者さんの負担はより軽減すると考えています。
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