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専門医インタビュー

金属アレルギーがあるから、歳だからと諦めていませんか? 膝や股関節に痛みがあれば専門医に相談を

兵庫県

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日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会リウマチ認定医、日本整形外科学会スポーツ認定医、身体障害者指定医、難病指定医、平成27-29年(米)ピッツバーグ大学整形外科客員研究員、神戸大学医学部 臨床講師

この記事の目次

膝や股関節の痛みに悩んでいる中高年の方が多くおられます。しかし痛みがあっても、もう歳だから、持病があるから、金属アレルギーがあるからと諦めていませんか。主な痛みの原因は変形性膝関節症や変形性股関節症ですが、代表的な手術である人工関節置換術は、手術方法や術後のリハビリが進歩しており、患者さんの満足度が向上しているようです。神戸労災病院 整形外科部長 佐々木 宏先生に詳しく教えていただきました。

人工膝関節置換術や人工股関節置換術は主にどのような方が受けている手術なのでしょうか?

人工膝関節置換術や人工股関節置換術を受けるほとんどの方は、膝や股関節にある軟骨がすり減り、骨と骨がぶつかって痛みが出ている変形性膝関節症や変形性股関節症を患っていらっしゃいます。その他に人工膝関節置換術の場合は、微小な外傷などが繰り返されて生じる大腿骨内顆骨壊死に対しても行われることもあります。また人工股関節置換術は、アルコールの多量摂取や過度なステロイド使用などが原因となって生じる大腿骨頭壊死に対して行われることもあります。
人工関節置換術は、痛みの原因となっている部分の骨を切り取り金属やポリエチレンなどでできた人工関節に置き換える手術です。手術によって痛みを軽減させるだけでなく、できる限り自然な動きを取り戻すことが目的です。

変形性膝関節症の4段階
変形性膝関節症の4段階

以前と比べて使用される人工関節や手術方法はどのように進歩していますか?

これまで人工関節に関する様々な研究が行われ、人工関節そのものや手術方法などが進歩しています。
人工関節そのものとしては、使用されるポリエチレンの進歩があります。以前使用されていたものは摩耗しやすかったのですが、現在のものは素材などが改良され摩耗しにくくなったので、20~30年の耐用性が期待されています。
その他にデザインが改良されたことで術後の違和感が少なくなり、より自然な動きを取り戻せるようになっています。このような進歩は、患者さんの満足度向上につながっていると思います。
また、筋肉などの組織をできるだけ傷つけない低侵襲な手術が広がってきたことで、手術直後の痛みや筋力低下ができるだけ抑えられ、股関節の場合には脱臼リスクの低減が見込めるようになりました。
手術前にどのような人工関節をどこに設置するかという計画を立てるのですが、この方法も進歩しています。以前はレントゲン画像をもとに行われましたが、2次元の画像であるため正確に計画しにくいことがありました。現在は患者さんの骨の画像を3次元化したものをもとに手術のシミュレーションができるので、より正確な計画を立てられるようになっています。また、計画通りになるよう手術中にナビゲーションなどを使用することで、正確な位置に人工関節を設置できるようになっています。

人工関節置換術後は早期にリハビリを行えるのでしょうか?

以前は手術後に強い痛みを感じることで、思うようにリハビリが進まない方がおられました。近頃は神経ブロックの使用や、膝であれば色々な鎮痛剤を混ぜたものを手術中に膝周辺に注射(カクテル注射)することで、手術翌日から歩ける方がいるほど痛みを軽減できるようになっています。それらによって術後早期から筋力や関節の動きを改善させるリハビリが行えるので、以前よりも入院期間が短く、早期の社会復帰が可能になっています。
退院後、日常生活の中で制限される動作は比較的少ないですが、筋力や可動域をさらに改善させるためには、リハビリを続けることが大切です。医師や理学療法士から教わったリハビリを、できるだけ毎日欠かさず3ケ月~1年程度は続けましょう。

金属アレルギーがあっても人工関節置換術を受けることができますか?

10~30%程度の方に金属アレルギーがあると報告されており、金属に接している皮膚などにかゆみや腫れ、発疹などの症状が出ることがあります。人工関節が金属アレルギーの原因となるかについては、まだはっきりとした根拠が無いのですが、手術を検討されているなら事前に調べておく方が良いと思います。
人工関節には様々な金属が使われています。もし金属アレルギーが疑われるのなら、整形外科で金属アレルギーを調べることが一般的ではないので、まずは皮膚科などでパッチテストと呼ばれる検査でどのような金属にアレルギーがあるのか確認してください。そして、金属アレルギーが見つかれば、手術前に医師にそのことを必ず伝えてください。
検査の結果、特定の金属に対してアレルギーがあることが分かれば、その金属を含んでいない人工関節や表面にアレルギーが出にくい金属でコーティングしたもの、あるいはセラミックでできた人工関節などを使用します。

人工関節置換術はどのくらいの年代の方が受けていますか?

膝関節の場合は、70代後半から80代前半で手術を受ける方が多い印象があります。一方で、股関節の場合は、ダイエットや筋力トレーンングを行っても症状が改善しにくかったり、より強い痛みを感じたりすることがあるので、膝と比べるとやや若い方でも多く手術を受けている印象があります。昔は、「人工関節はあまり長持ちしないから比較的若い年代で手術を受けるべきではない」と言われ、長年にわたって痛みを我慢されている方がおられました。
しかし最近は従来よりも人工関節が長持ちするようになったので、40代くらいの若い方でも股関節手術を希望されるケースが増えてきました。
近頃は元気なご高齢の方が増えているので、90代の方でも手術を希望されることがあります。しかしご高齢だと心疾患などの持病をお持ちの方が多くおられるので、手術を受けることができるかを内科など他の医師に相談してください。
人工関節や手術法などの進歩によって、以前では考えられなかった幅広い年代の方が手術を受けるようになっています。

人工関節置換術を考えたほうが良いタイミングがありますか?

患者さんから「手術を早めに受けたほうが良いのでしょうか?」と聞かれることがあります。基本的には筋力が衰える前に手術を受けたほうが良いと思います。また、膝や股関節が変形しているからといって必ずしも予防的に手術を受ける必要はなく、筋力トレーニングやダイエットなどにより筋力や体重をコントロールすることで、症状の緩和が期待できます。それでも、痛みのせいで日常生活を送れないようになったら、メリット・デメリットを考えて手術を検討しても良いのではないでしょうか。
ただし、手術を受けたからといって若い頃のような100点満点の状態に戻るわけではありません。今のご自身の状態が何点くらいなのか、手術を受けることで何点くらいに改善が期待できるのかということを専門医に確認し、それをもとに手術を受けるか判断しても良いと思います。

他に変性性関節症に治療法はないのですか?

例えば、変形性膝関節症の手術には人工膝関節置換術だけでなく、変形の進行度合いに合わせて関節鏡手術や骨切り術があります。半月板などが悪ければ関節鏡手術が適応となり、膝の内側だけ悪い方に対しては脚の骨を切って形を変えることで荷重がかかる部分を変える骨切り術が適応になります。人工関節の耐用年数は以前よりも延びていますがまた手術後に激しい運動などを行うと、人工関節がゆるんでしまい再手術が必要となるケースがあります。そのため比較的若い方や激しいスポーツなどを好まれる方は骨切り術を希望されることがあります。
ご自身の状態や年齢、今後どのように生活してきたいかということを医師にしっかり伝え、色々な手術の中から納得できるものを選択することが大切だと思います。

関節鏡手術
関節鏡手術
骨切り術
骨切り術

膝や股関節の痛みに悩んでいる方へメッセージをお願いします。

膝や股関節の痛みに悩んでおられる方は多く、変形性膝関節症は潜在的におよそ3,000万人、症状のある方はおよそ1,000万人、変形性股関節症は120万~510万人いると言われます。
膝や股関節に痛みがあれば、まずはお近くの整形外科を受診し現在の状態をしっかり診断してもらいましょう。医師からは変形の進行度合いだけでなく、患者さんのライフスタイルにあわせた治療法を提案してもらえると思います。変形性膝関節症の治療には、手術でない保存療法や再生医療の他、関節鏡手術や骨切り術、人工膝関節部分置換術や人工膝関節全置換術など様々な治療法があります。それぞれの治療にはメリットだけでなくデメリットもあるので医師としっかり話し合いよく理解した上で、ご自身が納得できるものを選ぶようにしましょう。
ご自身のライフサイクルに応じた膝・股関節の痛みの治療について、お気軽に専門医にご相談ください。


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