専門医インタビュー
骨接合術の一例
骨接合術(こつせつごうじゅつ)か人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)のどちらかが選択されることが多くあります。骨接合術は骨を元の形に戻して固定することで、折れた部分をくっつける手術です。現在ではさまざまな器具が開発されていて、金属のプレートや髄内釘(ずいないてい)による固定のほか、糸の付いたアンカーと呼ばれる器具で固定する方法が代表的です。骨折の状態によって適切な方法が選択されます。
比較的若い方であればできる限り骨接合術で対応し、受傷以前の状態に戻していくことを目指しますが、骨の転位や粉砕が激しいときに選択肢となってくるのが人工関節置換術です。特に高齢の患者さんでは、ご本人とも相談の上、人工関節を選ぶケースが少しずつ増えてきています。ここで年齢が関係してくるのは骨頭壊死(えし)のリスクがあるためです。上腕骨近位端骨折では、骨接合術で固定をしても上腕骨頭への血流が遮られ、その後上腕骨頭が壊死してしまうことがあります。若い方であれば再手術も可能ですが、高齢になると難しいことがあるため、最初から人工関節を検討することが少なくありません。
大きく分けて人工骨頭置換術とリバース型人工肩関節置換術の2種類があります。前者は従来から長く用いられてきた術式で、上腕骨の骨頭を切除して人工物に置き換える手術です。骨折していた骨頭の部分が置き換わることで、受傷以前の肩に近い形に戻すことができ、腕を上げるといった機能の改善を目指せます。ただし、結節についた筋肉が失われているなど骨折が複雑な場合には、適応できないことがあります。
後者は、2014年から日本でも使用可能となった新しい術式です。上腕骨頭と肩甲骨側にある受け皿(臼蓋)が、本来の体のつくりとは逆の位置に来ることから「リバース型」の名称がつけられています。このデザインにより、人工骨頭置換術では機能を取り戻すのがむずかしかった複雑な骨折に対応することができます。ただし、リバース型は10年程度経過すると筋力の低下に伴って徐々に手を上げる力が弱くなるという欠点があり、人工骨頭置換術と比べると機能的な耐用性がやや短く、再置換がしづらいことから原則65歳以上という年齢制限が設けられています。また手術後、健常な方と全く同じレベルにまで機能を戻すのは難しいとされています。そのため、少しでも受傷以前の状態に近づけたいという患者さんの希望が強ければ、人工骨頭置換術を優先して検討することもあります。
人工骨頭置換術
リバース型人工肩関節置換術
肩関節は前述の通り「動かさないでいるとすぐ動かなくなってしまう関節」であり、手術後のリハビリがとても重要です。手術後1週間くらいで傷の状態が落ち着けば、腕を前や横に挙げる挙上運動に入り、日常生活に必要な可動域を取り戻していきます。
骨接合術や人工骨頭置換術の後は特に、手術で整えた部位を壊さないよう守りながら動かさなければなりません。
理学療法士や作業療法士の管理のもと極めて慎重にリハビリを進めます。リバース型人工肩関節置換術の場合は、他の2つの術式に比べるとやや気を使う程度が和らぎ、患者さんの自主的なリハビリを進めやすいとされています。肩の骨折は、体の他の部位の骨折と比べると痛みが強く出やすい傾向にあります。しかし、最近ではさまざまな薬を組み合わせて積極的に疼痛コントロールを行うことで、「リハビリができないほど痛い」という状態は避けられるようになってきています。
術式を問わず、骨がくっつくのには1カ月半~2カ月程度かかります。職種にもよりますが、仕事復帰は3カ月くらいをめどに考えると良いでしょう。
リバース型人工肩関節の登場により、高齢の方でも手術を受けて機能回復が期待できるようになったのは医師としても喜ばしいことだと思います。一方で依然として肩の骨折治療は手術後のリハビリがとても重要で、患者さん自身ががんばる意思を持たなければ回復は進みません。リハビリ通院を続け、1年ほどかけて機能を取り戻していく必要があります。
回復のゴールをどこに置くのかを明確にすることも大切です。日常生活に支障がない状態を目指すのか、趣味のスポーツ復帰までを目指すのかによって、リハビリで求められるご自身の努力の度合いは異なります。ご家族や医療スタッフなど周囲の手をうまく借りながら、ご自身が希望する形での生活再開に向けて、必要な治療にしっかりと向き合ってほしいと思います。
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