専門医インタビュー
人工股関節
股関節の骨切り術
骨や軟骨の変形や損傷が進んでいれば、人工関節が第一選択になると思います。しかし、まだ骨の変形が軽度で軟骨が温存されていれば、被りが浅い寛骨臼を切り抜き被りが深くなるようにする骨(こつ)切り術という方法があります。
以前の骨切り術は、20~30cm程度大きく切開していましたが、手術手技や使用される器機の進歩により大きく切開する必要がなく、骨切り術においてもできるだけ低侵襲な方法で行われています。手術後2ケ月程度は松葉づえなどを使い、股関節にかかる荷重を軽減しますが、ご自身の関節が温存できる手術なので、状態が落ち着いてくれば、飛んだり跳ねたりといった激しいスポーツを行える可能性があります。特に活動性の高い若い患者さんにお勧めをしています。
股関節に到達するための侵入方法(アプローチ)には、前方、前側方、後方といったアプローチがあります。各アプローチにそのメリットや懸念なこともありますが、その中から、より患者さんにとって負担にならないアプローチ方法で手術を行ったほうが良いと考えています。一般的な後方アプローチでは、骨盤と大腿骨をつないでいる外旋筋群を切り、股関節を十分に確認しながら安全に手術を行うことができます。しかし股関節後ろ側の筋肉を切るので、人工関節が後方に脱臼するリスクや、和式の生活を避ける、内股を避けるなど術後に禁止される動作の制限が多くあります。一方で、前方系アプローチの手術は、もともとある筋肉などを切らずに股関節に到達するので、一般的な後方アプローチよりも股関節が安定します。そのため術後に制限される動作がほとんどなく、痛みも少ないので早期の回復が期待できます。前方系アプローチは、どの筋肉の間から股関節に到達するかにより、前方アプローチと前側方アプローチがあります。前方アプローチは、縫工筋と大腿筋膜張筋の間から侵入するのですが、手術中に人によって走行が異なる内側大腿皮神経と呼ばれる非常に細かい神経を刺激してしまう可能性があります。そのため術後早期に、太ももの前側や外側にしびれ、痛み、感覚障害を感じることがあります。一方、前側方アプローチは、中殿筋と大腿筋膜張筋の間から侵入するので、中殿筋が少し萎縮することがあります。しかし、そのような場合でも自覚症状はほとんどなく、より身体への負担が少ないアプローチ方法だと思っています。
その方その方の骨の形やバランスだけでなく、背骨や股関節、膝の状態を考え、使用する人工関節の種類、設置する位置や角度が理想的なのかという計画を手術前にお一人ずつ綿密に立てます。手術中はその計画を確認しながら、もともと生まれ持った関節のように、正しい位置に正しく人工関節が設置できるようにします。
手術中は人工関節の設置だけでなく、出血や感染といった合併症ができる限り起きないようにも注意します。以前は手術中の出血に対応するために、事前にご自身の血液を貯めておき(自己血貯血)、手術中に必要であればその血液を使用していました。現在では出血を減らす薬剤の使用や、出血量が大幅に抑えられているので、ご自身の血液や他人の輸血を使う必要はほとんどなくなっています。糖尿病の方やたばこを吸われている方は、感染のリスクが上がるため、手術前に血糖値をコントロールし、禁煙していただくことがあります。手術後、傷口を洗うのは怖いので石鹸を使わない方がいますが、感染を予防するためには、しっかり石鹸で傷口も洗い清潔に保つようにしてもらっています。
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