専門医インタビュー
リハビリテーションは理学療法士指導のもと、まず可動域訓練から始めます。可動域訓練とは膝を曲げ伸ばしできる範囲を広げるための訓練で、手術の傷が治る過程で膝周りの皮膚や筋肉が硬くなるのを避けるために行います。手術の麻酔が残っていて痛みがないうちに十分に膝を動かしておくことで、その後のリハビリがスムーズに行えるのです。
可動域訓練に続いて、車いすに移ったり、立つ練習に入り、平行棒を使った歩行訓練、歩行器、杖とステップアップしていきます。術後の回復の進み具合は患者さんそれぞれですが、総じて、術前に筋力があまり落ちていなかった人ほどリハビリは進みやすく、我慢に我慢を重ねて筋力が落ちた状態で手術に踏み切ったという人は、ある程度時間がかかる傾向にあります。日常生活に必要な段差を超えられるようになり、階段の昇り降りがご自分でできるようになれば退院の目安としています。
人工関節がしっかり体に馴染むまで半年ほどかかるため、その間に筋力を落とさないよう自宅でも大腿四頭筋のトレーニングは継続してください。最初は膝周りが熱を持つことがあるかもしれませんが、そうしたときは保冷剤などで軽く冷やしましょう。適度に体を動かすことは大切なものの、激しく走る、飛び跳ねるなど、膝に急激な衝撃がかかるスポーツは控えてください。農家の人や趣味で農作業をしている人には、重いものを持つ、長い間中腰の姿勢をとる、地面に膝をつくといった動作について無理のない範囲で行っていただくようお伝えしています。
また、人工関節を長持ちさせるため、骨粗しょう症の予防は重要です。人工関節を支えている土台の骨が弱くなると、人工関節の損傷につながりかねません。カルシウムやビタミンDを普段の食事の中で意識して摂ったり、適度な日光浴に努めてください。
変形性膝関節症では、腰椎疾患を併発するケースがしばしばあります。膝が痛いと、それをかばって歩くために姿勢が悪くなり、腰に過度な負担をかけてしまうためです。また、膝痛が原因で股関節の痛みや肩こりが出て、そちらも治療が必要になったり、前かがみの姿勢が癖になって転びやすくなる人もいます。膝の健康は、歩行能力・日常生活能力に直結しますので早めの治療を心がけてください。痛みが和らぎ暮らしやすくなることで行動範囲が広がったり、活動的な生活で社会とのつながりが深まることは、認知機能を維持していく上でも大切です。
今日、整形外科領域だけでなく、内科領域もめざましく進歩しています。患者さんによっては「自分は内科系の持病があるので、手術は無理に決まっている」と考える人もいるかもしれません。しかし、内科や麻酔科の先生との連携により、リスクを抑えながら手術を行える環境が広がっています。自己判断で最初から諦めてしまうことなく、まずは一度、専門医に相談してみてほしいと思います。
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