専門医インタビュー
石川県
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慢性的な膝痛に悩まされている人は、決して少なくありません。原因は世代によってさまざまですが、高齢者では「変形性膝関節症」、高校生から大学生の若者では、「前十字靭帯損傷」が代表的な病気といえるでしょう。今回はその病気の原因と、主な治療法などについて、木島病院 理事長の竹内 尚人先生と整形外科医でスポーツ専門医の北岡 克彦先生にお話をうかがいました。
変形性膝関節症のレントゲン写真。
軟骨がすり減り、膝の角度に片寄りがある。
竹内 高齢者の場合、膝の痛みで病院を訪れる方の多くが変形性膝関節症と診断されます。厚生労働省の推計ですが、変形性膝関節症で自覚症状のある患者数は全国で約1,000万人といわれています。この病気は、膝関節の表面にある軟骨がすり減ったり、半月板を損傷したりすることで炎症が起こり、痛みが出ます。変形性膝関節症は原因がはっきりしない1次性と、感染や過去のけが、関節リウマチなどが原因となっている2次性に分けられ、症例の90%以上が前者です。
加齢や筋肉の衰えが原因で、肥満、O脚、遺伝などが危険因子とされます。膝に負担のかかるスポーツの習慣がある方も適応です。中高年の女性に多いのも特徴で、40歳以降に発症が多く見られ、高齢になるほど罹患率は高くなります。
竹内 初期の症状としては、起床時の違和感、歩き始めの痛み、階段を下りるときの痛みなどがあげられます。最初は膝が痛むものの、休むと治るというのも初期症状の特徴です。それが中期に進行すると、痛みが持続するようになり、膝が伸びない、正座ができない、膝に水がたまる、腫れるといった症状があらわれます。じっとしていても膝が痛くなり、外出したくてもできないなど、日常生活に支障をきたすようになったら、もう症状は末期といえるでしょう。
竹内 残念ながら、すり減った軟骨を元に戻すことはできません。症状が軽い場合は痛み止めの薬を処方し、並行して運動療法に取り組んでもらいます。リハビリ施設やプールを使って、膝に負担をかけないようにしながら、筋力をつけます。
北岡 運動療法は、初期の変形性膝関節症に一番効果のある治療法です。太っている人には体重減の効果も見込めます。歩くと膝には体重の5倍の負荷がかかるとされ、体重を10キロ減らすことができれば、膝への負荷を50キロも軽減できる計算です。 痛みで運動もままならない患者さんには、膝関節内へのヒアルロン酸注射をします。1週間に1回、5週にわたって行います。ヒアルロン酸には軟骨を保護し、潤滑作用もあるので、ある程度の改善効果を期待できます。
竹内 ここまで申し上げた保存療法を実施しながら、3カ月から半年ほど経過観察し、改善が認められなければ、軟骨摩耗の要因となっているO脚を矯正するための高位脛骨骨切り術、もしくは患部を人工的なものに換える人工膝関節置換術を行います。骨切り術は自らの膝関節を温存できるのが最大の利点です。多くの場合、普段通りの生活ができるようになりますが、痛みが残る可能性があります。また手術後、歩けるようになるまでに2カ月ほど掛かります。
人工膝関節に置換後の
レントゲン写真。
白い部分が人工膝関節
竹内 人工膝関節置換術は、日本国内で年間7万件ほど行われているポピュラーな手術療法です。時間も1時間から1時間半ほどで終わります。基本的に高齢者向けの治療法ですが、40、50代の患者さんでも人工関節を希望するケースがあり、20年後の再置換を見越して手術することも増えています。再置換といっても、全部取り換える必要がなければ、手術自体はそれ程難しいものではありません。
北岡 人工膝関節置換術の大きなメリットは除痛効果です。手術後は痛みがなくなり、回復期間も短く、2週間ほどで歩けるようになります。正座以外の動きも難なくこなせるまでの回復が見込まれます。ただし、人工関節は人工物ですので耐用年数が限られており、若いうちに置換すると後で再置換する必要が出てきます。 手術適応の年齢としては、損傷の具合や患者さんの希望にもよりますが、50代までの方は骨切り術、60歳以上は人工膝関節置換術を選択することが多いです。医療技術の進歩で人工関節の耐用年数は伸びてきており、置換から20年間、問題なく使用できる割合は90%を超えています。リハビリへの取り組み次第では、ゴルフ、水泳、サイクリングなど、ある程度の運動ならできるようになります。
竹内 リハビリの期間も含めて1カ月ほどでしょうか。リハビリの流れも定まっており、患者さんには、理学療法士が患者さん毎に作成したクリニカルパスと呼ばれるスケジュール表を手術の前に説明して、それを基準にしてリハビリプログラムを消化してもらいます。
北岡 早期の自立歩行を目指して、リハビリは手術前からスタートします。関節の可動域(膝の可動域=歩くとき-60度、しゃがむとき-100度、自転車-120度、正座-140度です。)を広げ、筋力を増強してもらいます。手術後は2日目から再開し、歩行器を使った歩行訓練、筋力トレーニング、つえを使った歩行訓練、階段の昇降訓練、日常生活の動作訓練などに取り組んでいただきます。退院までの回復の目安は「退院後に通院できること」です。
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