専門医インタビュー
全置換術と部分置換術
手術では、傷んで変形した膝関節の表面を取り除き、金属やポリエチレンでできた人工膝関節に置き換えます。膝関節の全体を置き換える全置換術に加えて、すり減りが片側(多くの場合は内側)だけに限定されている場合、傷んでいる側だけを人工膝関節にする部分置換術もあります。それぞれ適応が異なりますので医師に確認してみましょう。
両膝に同じぐらい強い痛みを感じる場合は、両側同時に手術することも可能です。片膝だけの手術だと、リハビリ時に手術したほうの足をかばって歩くため、反対の膝に強い負担がかかってしまうことがあります。そのため両側同時の方がバランスを取って歩くようになり、リハビリがよりスムーズに進むこともあります。ただし、手術時間も出血量も倍になってしまう点を踏まえなければなりません。心疾患など持病があると手術が難しい場合もありますので事前に検査をする必要があります。
患者さんとレントゲンを一緒に見ていると、「私はもう人工膝関節の手術を考えたほうが良いのでしょうか?」と聞かれることがよくあります。しかし、手術のタイミングはレントゲン所見で決まるのではなく、あくまで患者さんご自身が「膝の痛みでどのぐらい生活に支障が出ているか」だと思っています。
変形性膝関節症が進行して痛みが強まると、次第に狭まった生活を送るようになります。例えば、大好きだった旅行に行けなくなる、友達に外出に誘われても迷惑をかけるから遠慮するなど、諦めないとならないことが増えて、ご自身がつらいと感じているのであれば、手術を検討するタイミングといえるかもしれません。
適応年齢については、「何歳まで手術できますか?」という質問をよく受けますが、年齢よりも「歩きたい」という意欲を患者さん自身が持っているかどうかが肝心です。例えば、ご自身でトイレに行きたい、できるだけ人の世話になりたくないなどの気持ちが強い方は、術前検査で問題がなければ90代であっても手術を決断されることがあります。
反対に、付き添いのご家族がいくら手術を希望されても、患者さん自身が「手術の必要はない」と考えるような場合は、お勧めできません。せっかく手術しても、ご自身の意欲と理解がなければ術後のリハビリも十分に進まず、退院後の暮らしで良い状態を保てないからです。
一方、30~40代などの若い世代では、人工膝関節置換術ではなく、骨切り術などで患者さん自身の関節を温存するケースが多いといえます。ただし、関節リウマチの場合は若い方でも人工膝関節置換術を選ぶことがあります。
人工膝関節置換術では正確に骨を切り、正しい位置に人工膝関節を設置することが大切です。そのためにいろいろな工夫がされますが、特にこの5年、10年の間に多様な手術支援システムが使われるようになりました。例えば、手術用のポータブルナビゲーションシステムでは、術中に患者さんの骨の形状や位置関係を把握し、どの位置で骨切りなどを行えば良いか車のナビのように知らしてくれます。このシステムにより1ミリ、1度という単位で誤差を抑えながら手術を進めることができます。
また患者さんのMRIやCT画像をもとに、事前に患者さんの膝関節とそっくりな3Dの骨モデルを作製するシステムもあります。これにより患者さんの骨に合わせて骨切りをするための器械を事前に作製することができ、術中に正しい角度や位置で骨切りを行うことができます。また骨モデルは、骨切りをするラインや人工膝関節のサイズ、設置位置を術前にしっかりとイメージできるので、骨欠損が多く手術計画が難しいケースにも適しています。こうした技術を活用しながら正確に手術を行うことが、人工膝関節の耐久性を伸ばし、より安全な手術として患者さんの安心につながっていくと思っています。
術前には必ず全身の検査を受け、健康状態を確かめます。心臓や肝臓、腎臓などに問題がある方は手術が難しい場合もありますので、医師の判断のもと、治療を進めるようにしましょう。糖尿病で血糖コントロールが難しい方は、先に糖尿病の治療を行うことになります。また、リウマチの治療などでステロイドを使用している方は、骨が弱くなっていたり、術後の感染リスクが高まったりするので、内科の先生と話し合いステロイドを減量することがあります。人工膝関節は材質の向上や手術方法の進化により現在では20~30年といわれています。それでも50~60代など比較的早い時期に手術を受けた場合、人工膝関節の寿命が尽きて再度手術をする必要が出てくる可能性が少なからずあります。他にも、確率は低いですが、何らかの原因による人工膝関節の破綻やゆるみ、術後の細菌感染などにより、再置換が必要になるケースがまれにあります。不安や心配なことは事前に医師とよく話し合ってクリアにしてから手術に臨むようにしましょう。
ページの先頭へもどる
PageTop