専門医インタビュー
人工膝関節置換術後の
レントゲン
人工膝関節の手術は、変形性膝関節症のためにできなくなっていたことが再びできるようになるかもしれない最後の手段です。手術をしなければいけないのではなく、手術を受ければ、諦めていたことがもう一度できるようになる可能性がある、そういうふうに認識を転換していただきたい。とはいえ、手術に不安やこわさがあることはよくわかります。それを乗り越えるには、もしかしたら主治医からの説明だけでは難しいかもしれません。親族や友人で人工膝関節の手術を受けた人がいれば、詳しく話を聞いてみるのも一つの手だと思います。
人工膝関節の手術を受けて喜ばれることが多いのが、痛みの改善はもちろんですが、足が真っ直ぐになるということです。ずっとガニ股で歩いていたのに、手術後、真っ直ぐの足でスタスタ歩く後ろ姿を見た友人に驚かれるのが嬉しいと話してくれる方もいます。もちろん、人工膝関節に置換したらすぐに改善するわけではなく、1か月、2か月かけてよくなっていくわけです。当院の場合は、手術後2日間は疼痛管理を行いながら軽いリハビリを始め、3日目には離床。手術後5日目くらいから歩けるようになり、早い人は2週間くらいで退院されます。退院後一年間は2~3か月に一度定期検査に来ていただき、その後は一年に一回定期検診を受けてもらっています。
外科手術ですから、合併症の1つに感染症のリスクがあります。もちろん、これらの対策を万全にとった上で手術をします。当院の場合は、最初に口腔外科に依頼して歯科の感染症対策を行ってもらい、手術の1ヶ月くらい前に一通り術前検査を行います、糖尿病や心臓病などの有無を確認します。もし糖尿病があれば血糖コントロールを行い、手術に臨みます。特に下肢手術の場合、手術後に心配されるのが、深部静脈血栓症です。いわゆるエコノミー症候群を発症するおそれがあるので、手術翌日から抗血栓剤の服用や弾性ストッキングの着用などで予防に取り組みます。
ただ、この血栓症については、患者さん自身で防ぐことができるリスクです。私は、人工膝関節の手術を受ける患者さんには、手術を決めたその日から手術室に運ばれるそのときまで、足をマッサージしたりストレッチしたり、貧乏ゆすりでもいいので、とにかくどんどん動かしてくださいと言って運動を促しています。「血栓を防ぐのは患者さん自身ですよ」と話すようにしてからは、深部静脈血栓症を起こす方がかなり減りました。
また、医師の手術手技が高まることで防げるリスクも多くあります。私も手術手技の向上に取り組む中で、手術前の術前計画をしっかりたて、手術は1時間前後で完了することがほとんどです。もちろん、ていねいに行うことは大前提です。その上でスピーディーに進めることで出血量がかなり抑えられ、感染症のリスクも減ります。
変形性膝関節症の痛みや不安定性によって歩けなくなってしまった場合、最終手段として人工膝関節という治療の選択肢があります。手術に対して不安やこわさを感じていると、デメリットばかり見てしまいがちです。しかし、それでは、人工膝関節にしたときに得られるメリットを見逃してしまいます。残りの人生をどう過ごしたいのか、歩けるようになったら何ができるのか、デメリットばかりに目を向けずに考えていただきたいと思います。
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