専門医インタビュー
埼玉県
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人工股関節置換術とは、変形して傷んだ股関節を取り除き、代わりに人工の関節を入れる手術です。以前の人工関節は年月が経つとどうしても緩んできて、入れ直さなくてはいけなくなることが多かったので、あまり若い人には勧めていませんでした。
しかし、今は、飛躍的に人工関節の材質や性能が良くなり、20 年以上何ら問題なく使えるようになりました。手術の技術も進歩し、2 週間程度の入院で安定した歩行を獲得できる人がほとんどです。しかも、保険適応の手術ですし、年間で5 万人以上の方が受けている特に珍しい手術ではありません。
もし入れ直す必要が生じても、安全でスムーズに再置換術を行うことができます。一日中痛みのことが頭から離れず、痛いから外出を止めよう、これもできない、あれもあきらめるなどと自ら行動を制限してしまうようなら、人工股関節にしてはいかがですかと提案しています。
心身ともにネガティブに、うつ的な状態になってし
まうのは避けなくてはなりません。この手術の適応年齢は30 代から90 歳までですが、実際に人工股関節置換術を受けるのは50 歳から80 歳代の人が中心です。もし骨折したら100 歳の人でも手術治療を行います。
人工股関節置換術もそれと同じで、本人が望めば手術できないことはありません。
しかし、人工股関節置換術はあくまでも本人の希望があって行うものです。家族が無理に連れてきても、本人がイヤイヤ手術をして積極的にリハビリができないと、いい結果は生まれません。
自分で何とかしたいと思って決めた人は、必ずうまくいきます。この手術をしなければ、命にかかわるということではありません。車いす生活でもいいという人に、無理に勧めるものではないのです。
痛みを抱えて外出しづらくなっている親には、「一緒に旅行に行きたいね」と、その思いを素直に伝えて手術を勧めてみてはどうですかと、私はいつも家族の方に話しています家族間のコミュニケーションはとても大事です。
手術の様子(サージカルヘルメット着用)
手術日が決まったら、1か月前に血液検査などの全身検査を行います。3週間前には自己血貯血のために400㏄ずつ、2回採血します。しかし、採血によるショックのリスクも無視するわ けにはいきませんから、必ず全員が貯血するわけではありません。手術中の出血を回収して体内に戻す(術中回収血輸血)こともできますから、自己血の備えは絶対に必要というわけではありません。手術中のリスクは出血のほかに、感染と血栓症(エコノミークラス症候群)が考えられます。感染は、クリーンルームでの手術や、サージカルヘルメットを用いることで予防を心がけています。血栓症を防ぐために、術後にフットポンプを用いたり、手術の翌日には起き上がる、さらに、血液検査モニターや下肢静脈エコーなどで血栓を発見したら、即座に抗凝固療法を行う体制 も整えています。
前方進入法(DAA)
最近の外科手術は、低侵襲というのが主流になっていますが、皮膚切開が小さければいいということではありません。最小侵襲手術(MIS)とは、筋肉を切離しない手術です。人工股関節置換術は全く切らないというわけにはいかないのですが、私はDAA(Direct Anterior Approach)という前方の筋肉の間から入っていく方法を用いています。仰向けに寝た患者さんの、前方から切っていきます。一般的には横向きに寝て、お尻側から切っていく方法が多いのですが、DAA 後方の関節包や筋肉を切らないので脱臼の心配も少なく、筋切離に伴って起こる可能性がある尿漏れも防ぐことができます。また、仰向けに寝ている姿勢なら患者さんの体がぶれることもないので、レントゲンで手術中に繰り返し確認(術中透視)しながら、正しい手技で行 われているかどうかの評価もしやすいというメリットもあります。さらに、必要な患者さんには両足同時に手術を行うようにしています。というのは、左右の足の長さはそろえなくてはなりませんから、何か月後かに改めてもう片方を手術するよりも、同時にしたほうが、長さもきれいにそろいます。手術後のリハビリに要する時間も、片方の場合とあまり変わりません。
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