専門医インタビュー
池内Dr.:膝や股関節に痛みを覚える患者さんが人工関節の置換手術を行う、その重大な決意をするにあたっては、患者さんご本人だけでなく、ご家族にとっても不安が伴うものです。私たち医師や看護師は、言葉による説明はもちろんのこと、手術に関する本を渡して読んでいただいたりして、時間をかけて不安を取り除くように努力します。
患者さんが怖がっていては何もかもがうまくいきませんし、ご本人に意欲がなければ、術後のリハビリも続きません。
また手術をしたあとに、「できること」と「できないこと」の説明をし、正しく理解していただくのも大切なことです。患者さんが手術後の生活に対して多大な期待を抱き、かえって満足されない場合もありますので、いろいろなケースがあることをあらかじめ理解していただきます。
そしてようやく手術をしましょうと決まると、手術前検診を行います。問題があれば精密検査もします。ご高齢の患者さんは薬を多数服用している場合が多いですから、手術に備えて薬の量を調整することもあります。
そして日程が確定するのが手術の約3週間前です。必要に応じて手術に使う自己血を採取し、パックにして冷蔵保存しておきます。
手術の前々日か、前日には入院していただき、手術室の看護師が術前訪問をします。患者さんは何が行われるかわからないのが一番不安ですから、その不安を払拭できるように説明をします。執刀医、麻酔科医も訪問し、手術の概要や流れとその後のリハビリについても説明します。
池内Dr.:もっとも避けなくてはならないのが、手術中の感染です。感染すると、痛みが出るだけでなく、再手術が必要になる危険性もあります。
もともと関節や骨は外気と触れることがない完全な無菌状態です。そのうえ関節内は血の巡りがほとんどない組織ですから、いったん感染すると、抗生剤も効果がありません。菌を取り除くには、直接、生理食塩水で洗うことになります。
人工関節の置換手術では、初回手術よりも2回目以降の再置換の際に感染リスクが高まり、入院が数カ月に及ぶ場合があります。術後のケガなどで感染する場合もあるので、原因は「これ」と断定できるわけではありませんが、術中の感染を防ぐために細心の注意を払うのは当然のことです。手術が短時間でスムーズに行われるように器械のセッティングなど万全の準備をするのも、感染を防ぐためなのです。
最近は、「クリーンルーム」と呼ばれる、二重扉を使った大きな空気清浄機のような部屋で手術を行う病院も増えてきました。
池内Dr.:一般的には、主治医を始めとする執刀医が2〜3人、麻酔科医が1〜2人。人工関節置換手術では全身麻酔を行うことが多く、麻酔科医は最初に麻酔をかけたあとも、心電図、血圧、血液中の酸素濃度など患者さんの変化を絶えず観察して、麻酔をコントロールしています。
それから手術室に入って直接器械を出す看護師が1〜2人、「外回りナース」と呼ばれる看護師が1〜2人。外回りナースは直接手術には関わりませんが、いろいろな物品を取って来たり、セッティングをしたり、患者さんはもちろん、医師の動きや機器の管理まで全て同時に神経を配る仕事です。直接器械を出す看護師は、一度手洗い消毒をして手術が始まると、滅菌されていないものはペンひとつ持てない、何も触れられない状態ですから、外回りナースが全体を見回して外と手術室をつなぐ役割を果たすわけです。
このメンバー全員で、手際よく手術を進めていくように協力し合います。
看護部副看護師長
谷脇 実紀
(たにわき・みき)
看護師
谷脇Ns.:まず手術前の予習がとても大切です。手順がスムーズに行われるためには、実際に器械に触ってみて、何が、どの部分に、どのように使われるのかを知る必要があります。
定期的に勉強会を設けてベテラン看護師が後輩の指導をしたり、医師や人工関節のメーカーの方に説明していただいたりして、知識をつけて手術に臨むようにしています。
正直、手術に用いる器械が手術の前日に届き、50種類以上のアイテムの名前から使い方までを覚えるのはプレッシャーがかかります。再置換の場合はより多くの器械が必要ですし、想定外のことにも対処できるように、多めに準備する場合があります。
ほとんど使う可能性がないとしても、看護師としてはすべてを把握しておかなければなりません。約1時間の手術で50以上の器械を次から次へと出して医師に渡していくという手際のよさと正確さを求められますから。
池内Dr.:毎回同じスタッフで手術を行うわけではなく、麻酔科医や看護師といったメンバーがその都度入れ替わるケースも珍しくありません。ですからスムーズに進行するように、コミュニケーションをとることが非常に大切ですね。
人工関節の置換手術は、時間的に長くありませんから体力的にはそうきつくないですが、感染症のリスクを軽減するためには、とにかく「手際よく」行うことが大事です。もちろん肝心なところは丁寧に行います。
スタッフが共通認識を持って、この大事なところをリズムよく行えると全体がスムーズに流れますし、感染のリスクも軽減します。
谷脇Ns.:看護師にもよくコミュニケーションをとるように指導しています。「わからなければ、先生によく聞きなさい」と。ただ手術が始まってからの質問は執刀医の手を止めてしまうので、できるだけ手術前に質問するように心がけています。インプラント(人工関節)のサイズの確認など安全性に関わることは、2重3重にチェックをし、声を出して確認します。また手術中の雰囲気をなごやかにするようにも心がけています。
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