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専門医インタビュー

その腰痛、股関節が原因かもしれません。早期発見が難しい「臼蓋形成不全」

静岡県

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日本整形外科学会認定専門医

この記事の目次

初期の段階では、なかなか気づきにくい臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)は、放置して進行すると、強い痛みや歩行障害を生じる変形性股関節症に発展してしまいます。特に、治療を受けているのに改善しない痛みや違和感がある方は要注意です。早期に発見しておきたい臼蓋形成不全について、股関節を専門に数多くの治療を手がけておられる西脇先生に教えていただきました。

太ももの付け根のあたりに起こる痛みや重だるさの原因は何ですか?

足の付け根の痛みの多くは股関節のトラブルによるもので、特に痛みが強く、足を動かしにくくなった場合には、変形性股関節症が考えられます。変形性股関節症は、日本人の場合、圧倒的に「臼蓋形成不全」という股関節の障害が原因で発症しています。しかし、臼蓋形成不全の初期は、運動後に重だるい痛みが起こっても、運動をやめるとすぐに治まってしまうということが多くあります。そのため、初期の段階で股関節専門医を受診する方は少なく、気づかない方も多いのが現状です。しかし、実際に当病院で人工股関節置換術を受けられた患者さんの7~8割に臼蓋形成不全がみられますので、股関節のトラブルの中では見逃せない重要な障害です。

臼蓋形成不全の股関節は、どのような状態なのですか?

臼蓋は、股関節でボール状の大腿骨の骨頭を屋根のように収めている部分のことです。臼蓋形成不全の股関節はこの屋根が浅く、狭い状態のため、荷重を分散することができずに部分的に負荷がかかり、その状態が続くとその部分の軟骨がすり減ってきます。臼蓋形成不全の方は、体重を支えるのに力学的に不利な状態にあるので、放っておくと変形性股関節症になりやすいということですね。

臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)は、「発育性股関節形成不全(DDH= Developmental Dysplasia of the Hip」の一つの症状で、先天的な要因・素因に加え足の自由な運動を制限することで、臼蓋の形成が正常に進まないために起こります。

発育性股関節形成不全(DDH)

  • 臼蓋形成不全
  • 亜脱臼
  • 先天性股関節脱臼

成人してからの臼蓋形成不全の早期発見は難しいのですか?

特に若いうちはまだ軟骨がしっかり残っているので、臼蓋形成不全があっても日常生活ではあまり痛みを感じないことがほとんどです。加齢や体重による関節への負担などが重なって軟骨がすり減ってくると、痛みを感じたり、違和感が出てきたりするのですが、臼蓋形成不全の場合はその痛みが股関節のトラブルによるものであることに気づかない方も多いのです。
非常に多いのが腰部椎間板ヘルニア・坐骨神経痛などの腰椎由来の疾患だと思い込んでいるケースです。長い間、治療を受けていたけれど、実は臼蓋形成不全だったというのは珍しくありません。腰椎疾患に限らず、治療を受けているのに一向に症状がよくならない場合は、股関節の専門医に原因を調べてもらうことが大切です。

臼蓋形成不全では、どのような治療法がありますか?

最初はどの程度動くと痛みが出るのか理解し、痛みと上手につきあう必要があります。関節の負担を減らすためにダイエットをしたり、股関節周囲の筋力をつけるためにプールなどで運動をすることも有効です。

根本的な治療は、手術が中心になります。手術の場合は、一つには、浅く、狭い状態の臼蓋の部分の骨を切ってずらす、もしくは付け足して、形成不全となっている屋根をつくるという治療を行います。

進行してしまった場合には、人工股関節置換術を考慮します。以前は、若年者の場合には人工股関節の耐用年数を考慮して、変形が進行していても骨を切る手術をして時間をかせぐことがありました。しかし、最近の人工股関節は耐久性がかなり向上しましたので、時間をかせぐ手術自体が少なくなりました。また手術技術も進歩しています。骨を切る手術も以前にくらべ小さな切開で体への負担が少なくなってきていますし、人工股関節に置換する手術も筋肉を全く切らずに行うことができるようになりました。いずれの手術でも術後の患者さんの生活の質が格段によくなってきています。

私の場合は、人工股関節置換術を受けられた患者さんには、特にとってはいけない姿勢などを設けず、ご自分のやりたいことをなさって欲しいと言っています。スポーツも、やらない方に比べると人工股関節の耐久性は低下しますが、患者さんにはそのような情報もしっかりと伝えています。患者さんご自身の人生ですから、退院後も後悔のないように過ごしていただきたいですね。

手術はすぐに受けたほうがよいのでしょうか?

必ずしも手術が優先というわけではありません。手術を受けるタイミングは、年齢や患者さん自身のライフスタイルによって決めたほうがよいと考えています。例えば、乳幼児期に健診で臼蓋形成不全が発見されても、程度が軽い場合は様子をみて、骨の成長が止まった時点で再評価をして治療が必要かどうかを確認します。

臼蓋形成不全の患者さんは成人した若い女性に多いのですが、プロのスポーツ選手やダンサーになりたいなど打ち込んでいるものがあるという場合、手術によってそれができなくなる可能性があります。その場合には、手術と夢の実現のどちらを優先するのかを、患者さんとよく相談して決めています。

患者さんの希望によっては、手術を後回しにすることがありますが、たとえそれで進行してしまっても人工股関節があります。治療の手立てがなくなるということはありませんから、患者さんの要望は大切にしています。

受診を迷っている患者さんにメッセージをお願いします。

臼蓋形成不全のリスク要因は、女性であること、胎児のときに子宮内で骨盤位(逆子)だった、家族(血縁者)に臼蓋形成不全や股関節脱臼の人がいるなどがあります。

受診はできるだけ早いに越したことはありません。臼蓋形成不全は、定期的に状態を確認しておくことが大切です。初期の段階ならある程度筋力をつけることで患部を補うこともできるので、早期に診察を受けていればそういう指導も受けられます。股関節やその周辺に痛みや違和感があれば専門医に相談してください。


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