コラム29 3Dプリンターが整形外科の手術に役立っているって本当!?
ジンマー バイオメット
イメージング ソリューションズ
古谷野 啓子さん
今や3Dプリンターを使ってあらゆる物が作れる時代になりました。3Dデータをもとに、樹脂や石膏、金属などの材料を用いて設計図どおりに立体物を作り出していくのですが、この3Dプリンター1つで大きな車から小さな部品まで様々なものを造形できるのです。そして、この画期的な技術は、モノづくり産業だけでなく、医療の現場でも活躍しています。今日は医療機器メーカーの担当者に、3Dプリンターが人工関節手術でも活用されていることについて聞いてみました。
3Dプリンターはどのように手術に役立っているの?
整形外科医は手術を行う前に、あらかじめX線写真(レントゲン)やCT画像のような2次元の断面画像を見て、患者さんの骨や臓器の形状をイメージしたり、どのように手術を進めるかを検討するなどの「手術前計画」を立ててから手術にのぞんでいます。
特に人工関節手術を受けた患者さんの再手術(人工関節再置換術)の場合は、一旦、体内で固定されている人工関節を取り出すわけですから、手術中はより慎重さや根気強さを要求され、手術時間もかかります。また、骨が複雑に変形している難しい手術もあります。そのような場合は、X線写真やCT画像だけでは熟練した医師であっても骨の形状を完全に把握することは困難です。
そこで役に立つのが3Dプリンターで作製する『患者さんの実物大骨モデル』です。3Dプリンターを活用して患者さんの骨の状態を実物大の立体的な模型に再現することで、患者さんの骨の形状を正確に把握することができます。そのため医師は手術前計画を立てやすくなりました。実際の手術通りに骨モデルを切るなど予行演習もできるため、より適切に手術を行うことが可能になります。また、この実物大骨モデルがあれば、患者さんの骨の状態が一目で分かるので、患者さんご自身が手術の内容を理解するのにも役立ちます。
実物大骨モデルは何でできているの?
特殊な石膏でできています。3Dプリンターで使用されている一般的な素材のひとつです。3Dプリンター用の素材として比較的安価で流通しているのは樹脂ですが、骨の薄いところや尖った部分の再現が樹脂だと難しかったですね。しかも手術用の器具で切ろうとすると溶けてしまったんですよ。
石膏であれば細かい部分の再現性も高く、実際に手術で使用する器具で骨モデルを切ったり削ったりすることもできますので、医療現場で役に立つと考え、実物大骨モデルの素材には石膏を選択しました。
骨の立体モデルはどのように作られるの?
まずCTで撮影した患者さんの2次元の平面画像を専用のソフトウェアに読み込み、3次元の立体画像を作ります。
ソフトウェアに読み込むCT画像は、撮影時のスライス間隔(何ミリ間隔で撮影するか)や患者さんの身長等によっても異なりますが、骨盤で200~250枚、大腿骨全体で380~480枚と、かなりの枚数になります。
体内に金属が入っていたり、骨の変形が激しい場合は、CT画像が乱れて骨が見えにくいため、1枚ずつ画像を見ながら綺麗に骨の部分だけを抽出して3D化します。精密な骨モデルをつくるには1日がかりの作業になりますね。
立体画像のデータが完成したら3Dプリンターに読み込み、印刷するのですが、基本は紙にインクをまいて印刷するのと同じインクジェット式です。粉状の石膏を薄く敷いて、その上に接着剤をまきます。すると接着剤がまかれた粉だけが固まります。その作業をなんども繰り返すことで固まった部分が立体的に作られていくわけです。
手術の副作用や危険性は?
実物大骨モデルは、特定の症例に対して、より安全で正確な手術を行うための手術支援用具です。これを用いることで手術前計画がスムーズに行えるため、手術時間の短縮や出血量、感染リスクの低減が期待できます。手術の副作用や危険性が増すことはありません。
ただし、治療、手術の結果を保障するものではありません。診断、治療、手術については、担当医師とよくご相談ください。