専門医インタビュー
大阪府
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「ひざの治療法は進化していますあきらめずに専門医に相談を」
ひざの痛みに悩む人のための健康講座が、5月9日に開催された。会場の大阪国際交流センター(大阪市天王寺区)には約700人もの来場者が詰めかけ、専門医の岡島良明先生による丁寧でわかりやすい講演に聴き入っていた。
主催:朝日カルチャーセンター
後援:朝日新聞社広告局
協力:人工関節ライフ
朝日新聞(2015/6/13)より転載
歩き始める時や立ち上がる時にひざに痛みやこわばりがある、階段の上り下りで痛む、ひざに水がたまって腫れるなどの症状はありませんか。これらは「変形性膝関節症」の症状の一例です。進行すると、夜も眠れないほどの激しい痛みが生じます。また、ひざ痛で姿勢が悪化し、腰や首、頭まで痛む場合もあります。
関節症は女性に多く発症し、とくに40代後半から急激に増加します(下図)。「変形性膝関節症」の患者数は、予備軍を含めると3千万人を超えるともいわれています。
原因は何でしょうか。ひざの関節は、大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(皿)などでできています。これらの表面は「軟骨」に覆われており、衝撃を緩和するクッションのような役割を果たしています。しかし年齢を重ねると、「軟骨」はすり減っていきます。すると、大腿骨や脛骨などの骨同士が直接当たるようになり、痛みや変形が生じるのです。
主な治療法として、まず減量があります。耳が痛い人もいるかもしれませんが、ひざの負荷を減らすのにはとても有効です。実際、BMI値(※)が25以上の場合、変形性膝関節症の発症率は約4倍にもなるのです。
それから、運動で脚の筋力を上げること。水中ウォーキングもいいですよ。ただし、事前に必ず医師に相談しましょう。
また、鎮痛剤やヒアルロン酸注射で、一時的に痛みを和らげる薬物療法もあります。
※ 体重〈㌔〉÷(身長〈㍍〉×身長〈㍍〉)で計算する肥満指数のこと
これらの方法で十分な効果がない場合、一般的に行われるのが「人工膝関節置換術」です。すり減った軟骨や傷んだ骨の表面を切除して人工関節に置き換える手術(下図)で、痛みを取り除く効果がとくに高いとされる治療法です。
個人差はありますが、術後3〜4週間ほどで退院でき、3カ月から半年ほど経てば、突っ張りやハリもほぼなくなります。いまでは、「人工膝関節置換術」の手術件数は年間8万件以上にも上ります。40代から100歳以上まで幅広い年代の人が手術を受けているのです。
また、「数年後に人工関節を取り替える手術が必要なのでは」と心配する人もいますが、昨今、人工関節の素材やデザインは大きく進化しており、いまは術後15年経っても96%以上は問題なく機能しています。
手術による治療にはほかに「骨切り術」「関節鏡」などがありますが、その効果は医師によって考えが分かれています。
人工関節の手術を考えるなら、ぜひ専門医のいる病院を受診することをおすすめします。最近では、止血剤を投与して手術時の出血をできるだけ抑えたり、神経ブロックや関節注射で術後の痛みを軽減させたりすることも可能になりました。また、手術の際に傷口の縫合を工夫すれば術後に抜糸をせずに済みますし、細菌の少ない特殊な手術室で傷口をしっかりと保護すれば毎日消毒をする必要もありません。
さらに、1回の手術で両脚(両ひざ)を治療する両側同時手術を行う病院もあります。手術が1回ということは、麻酔やリハビリ、入院なども一度で済むので、患者さんの心と体の負担も軽減できます。
では、人工関節の手術に踏み切るタイミングはいつがいいのでしょうか。目安として「階段がとてもつらい」「杖を使って100㍍歩くのが精いっぱい」「半年間治療をしても痛みがとれない」など、日常生活に支障が出ているなら、手術を検討すべきだと思います。
望ましいのは、少しでも体が元気なうちに手術を受けること。例えば、肝臓や腎臓が悪い、脳梗塞でまひがあるなどの場合は、手術を受けられないこともあります。また、ひざを十分曲げられないほど症状が進行してからでは、術後の経過にも影響してしまいます。
長年の痛みから解放された皆さんは、笑顔が増えて、本当にはつらつと暮らしています。第二の人生をもっと幸せに、もっと楽しく生きるために、怖がらず、あきらめず、ひざの専門医を受診してみてください。
第1問 ハイヒールは、変形性膝関節症に悪影響だ
第2問 階段の上り下りは、ひざの負担にはならない
第3問 変形性膝関節症と骨粗鬆症は関係がある
第4問 運動療法には、患者本人の意識も大切
第5問 人工膝関節は、多くの場合15年以上機能する
答え
1.○ (長時間高いヒールを履くと、ひざに大きな負担がかかる)
2.× (階段では、ひざに体重の4倍もの負荷がかかっている)
3.× (関係性は不明。骨が強くても変形は生じる)
4.○ (部位を意識しながらリハビリしないと、筋力が十分つかない)
5.○ (術後15年経っても、96%以上の人工膝関節がよく機能している)
高額の医療費に適用される「高額療養費制度」があります。
人工関節の手術には、さぞかし多くの費用がかかるのではと不安に感じる人は多いでしょう。
でも心配いりません。医療費の総額は、一般的に200万円ほどかかりますが、国民健康保険などの医療保険では、医療費の自己負担額は最高3割。さらに、同一月の自己負担額が高額になった場合、一定の金額を超えた分が後で払い戻される「高額療養費」が適用されます。年齢や所得によって計算式は異なりますが、実際の負担額は5万~10万円くらいに収まることが多いようです。
例えば、70歳未満で標準報酬月額28万〜50万円の場合。実際に支払う自己負担額は、80,100円+(医療費−267,000円)×1%となります(下図)。なお、差額ベッド代や食事代(自己負担分)などは別途かかります。
また、70歳未満で医療費が高額になることがわかっている場合は「限度額適用認定証」を提示する方法が便利です。詳しくは全国健康保険協会のホームページなどで確認を。
約3〜4週間で退院し、軽いスポーツもOKです。
リハビリの方針は病院によって違いますが、手術の翌日にはベッドから立ち上がり、歩行訓練を始めることが多いです。回復の状況に応じて、1週間後くらいからは、ひざを曲げる訓練も行います。術後3~4週間もすれば退院できるケースがほとんどです。
退院後1年は年3回ほど、2年目以降は年1、2回のペースで定期検診を受けて、人工関節のゆるみなどがないかチェックするようにしましょう。
また、退院後は1日5千歩を目安に歩くなど、適度に体を動かして体重管理を心がけましょう。旅行や車の運転も問題ありません。 ハイキングやゴルフ、水泳(平泳ぎを除く)などのスポーツもOK。ただし、走ったり、人にぶつかったりする激しい運動は避けましょう。なお、退院後の生活については必ず担当医に相談してください。
きちんと治療をすれば、ひざ痛から解放され、生活の質は確実に向上するはずです。ぜひ行動を起こして、ハッピーな毎日を送ってください。
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