専門医インタビュー
富山県
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3D術前計画や立体骨モデルの作製などで、人工股関節置換術は複雑な手術に対してもより良好で安定した成績を残せるようになってきました。今後は耐用年数もさらに長くなり、手術適応の年齢も低下していくのではないかと考えられます。「整形外科は人生を楽しむためのお手伝いをする診療科です。手術をするかしないかは自分がどんな生活を送りたいかを考えて決断するといいでしょう」とアドバイスするのは富山西総合病院の中村琢哉先生。3D技術による術前計画や実物大の立体骨モデルの有用性、前側方アプローチのメリット、術後の生活のポイントなどについてお話を伺いました。
股関節のインピンジメント
日本人の場合、外傷もないのに生まれつき股関節が外れている「先天性股関節脱臼」や骨盤の発育不全である「臼蓋形成不全」が原因で変形性股関節症を発症することが多く、全体の70%~80%を占めています。股関節は大腿骨の丸い骨頭(ボール)が骨盤の臼蓋(受け皿)にバランス良く納まって動くことで、体重を支えるという役目を果たしていますが、臼蓋形成不全の場合、受け皿である臼蓋の被さりが不十分であるために骨頭がうまく納まらず、体重を支えられなくなることで変形が進んでいきます。これに加え、近年増加化傾向にあるのが、大腿骨頭や頚部と臼蓋の周りが股関節の動きによって衝突(インピンジメント:FAI)することが原因で変形が進んでいくケースです。股関節を何度も深く曲げたりすることで、大腿骨と骨盤がぶつかって股関節に痛みが出てくるといわれています。股関節インピンジメントは従来、アメリカやヨーロッパで多く報告されていたケースなのですが、最近は徐々に日本でも見られるようになってきました。
変形性股関節症のX線
骨と骨がぶつかり、骨頭が
つぶれています
関節は運動の刺激によって作り上げられていきますから、乳幼児期に脚の運動が足りないと健全な股関節が形成できません。先天性股関節脱臼と診断されているケースの中にも、実際は生後しばらくしてから運動不足によって脱臼したケースがあるのではないかと考えられます。例えば、農作業の間に赤ちゃんが自由に動けないよう、脚がまっすぐのまま納まる入れ物に入れておくという地域が昔はあったようですが、これは十分に脱臼の原因になりますし、脱臼することで臼蓋形成不全を伴いやすくなります。しかし現在では、「脚をまっすぐに固定するようなオムツはやめて十分に股を広げられるようにしましょう」、「冬場寒くても脚を巻き込むような服ではなく、脚が別々に動かせるズボン形式のものを着用させましょう」などといった、保健所による予防指導が行き届くようになったおかげで先天性股関節脱臼の発症率は激減し、それに伴って臼蓋形成不全も減少しています。そのため、今後はこれら二次性の変形性股関節症は減っていくと予測されますが、一方で生活習慣の欧米化などから、一次性変形性股関節症が増加していくと思われます。
女性に多い疾患なので、一つのきっかけとして妊娠・出産時に痛みを感じ始めたというケースがみられますが、実際は患者さん一人ひとりによって痛みを感じ始める時期はさまざまです。臼蓋形成不全の程度が軽い人は発症時期も遅くなります。日本の場合、変形性股関節症は前期・初期・進行期・末期と大まかに4つの病期に分類されますが、変形度合いの軽い初期までであれば、減量やお尻の筋肉(中殿筋)を鍛えるための水中運動や自転車漕ぎなどが症状の改善に有効です。歩行時には体重の約3倍の負担が股関節にかかるといわれています。10kg痩せれば一歩一歩の負担が約30kg分軽くなるのですから、特に過体重の人は食事や関節に負担のかからない運動で減量に努めてほしいですね。変形が軽度であれば、こういった日常生活の努力で痛みを軽減させることが可能です。しかし、進行期から末期になって変形が進み、痛みもきつくなるようであれば、選択肢の一つとして手術を考えてもいいかもしれません。
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