専門医インタビュー
人工股関節置換術は、手術方法や人工関節そのものや使用される周辺機器が従来よりも進歩しています。その一つにデュアルモビリティ型と呼ばれる新たな構造の人工関節が登場し、脱臼リスクが高い方でもそのリスク低減が期待されています。
防衛医科大学校病院整形外科の小林紘樹先生に、人工股関節置換術が対象になる方や手術の進め方などのお話を伺いました。
寛骨臼形成不全
人工股関節置換術の多くは、変形性股関節症の方に行われます。変形性股関節症は、欧米人の場合は体重過多が原因となることが多いのですが、日本人などアジア人の場合は寛骨臼形成不全といって、生まれつき太ももと骨の骨頭(大腿骨頭)という部分を覆う骨盤の寛骨臼という部分の被りが浅い状態が原因となることが多く、その頻度は男性よりも女性の割合が高いです。初期の段階は軟骨が徐々にすり減り、その削りカスが原因となり炎症が起きて痛みを感じることがあります。進行すると骨同士が直接ぶつかり合うことで強い痛みを感じ、日常生活に支障をきたすことがあります。
その他に人工股関節置換術が行われるケースとして、股関節を骨折した方や大腿骨頭壊死の方などにも年代に関わらず治療の選択肢として検討されます。
人工股関節の構造
人工股関節置換術は、痛みの原因となっている骨を削り取り人工関節に置き換え痛みを軽減させるとともに、股関節の動きを改善したり取り戻したりすることを目的にした手術です。
手術は脚の付け根やお尻の皮膚を切り、そこから股関節へ侵入して行われます。骨盤側は骨を薄く削り、金属でできたカップを設置しその中に軟骨のかわりになるポリエチレンでできたライナーをはめ込みます。一方の大腿骨側は骨頭を削り取り、金属でできたステムを骨の中に入れ、その上に骨頭のかわりとなる金属やセラミックでできたボールを設置し股関節の球運動を再現します。
手術直後は切った皮膚や創部の腫れによる痛みを感じますが、手術翌日から全体重をかけることができ、手術前にあった股関節の痛みがほとんど感じられなくなります。
現在では手術に関連する様々な技術が進歩しており、その中の一つとして手術前に患者さんのCT画像を使ってパソコン上で行うシミュレーションが挙げられます。これにより、事前に患者さんごとに適した人工関節のサイズや設置角度を把握することができるので、従来よりも正確な手術が行えるようになっています。
骨盤側で使用される人工関節は、先程ご紹介したようにカップの中にポリエチレンが埋め込まれています。以前は使用されていたポリエチレンが摩耗しやすかったので、ポリエチレンを厚くしその中に小さなボールを入れてできるだけ長持ちさせようとしました。しかし、そのような構造では人工関節の可動域が狭くなり、脱臼リスクが高まります。近年ではポリエチレンの材質や人工関節のデザインが改良されたことで、ポリエチレンを薄くしても20~30年程度の長持ちが期待できるほど摩耗性が向上しています。それによって従来よりも大きなボールが使えるようになったので、脱臼リスクが低減しています。
さらにこれまで使用されているタイプに加え、デュアルモビリティ(二重摺動)型と言われるものが登場しています。これは、厚みのあるポリエチレンの中に小さなボールが入っているような構造です。従来はカップとポリエチレンのライナーが固定された一体型であったのに対して、デュアルモビリティ型はボールだけでなくライナーも動く二重構造になっていることが大きな違いです。その構造によって従来型よりも可動域が広くなることが期待されます。
人工関節そのものや手術方法の進歩によって、以前よりも人工関節が脱臼するリスクが低くなっています。しかし患者さんの中には、通常以上に活動量が多いため股関節の可動域を広く使ってしまう方、認知症が出始めた方、その他の病気の影響などで手術後の脱臼リスクが高い方がいます。そのような方に対しては、従来型よりもデュアルモビリティ型を用いたほうが人工関節の可動域を広く確保できるので、日常生活でそれほど脱臼リスクを気にせず生活できると思います。
デュアルモビリティ型にも改良されたポリエチレンが使用されているので、長期の耐用性が期待できると思います。しかし現時点では、長期間使⽤した報告がまだ出ておらず、今後長期成績が出てくることが期待されています。いずれにしても患者さんの年齢や状態にあわせた人工関節を使用していくことが大切ではないかと思います。
現在使用されている人工関節であれば、20~30年程度の耐用性が期待できると思います。しかし、10~15年程度でトラブルが起こることがあります。そのトラブルにできるだけ早く気付くためには、どんなに調子が良くても、定期的に人工関節の状態を確認してもらうことが大切です。
レントゲン画像上は股関節が変形していたとしても、痛みがあまりなく困っていることがなければ手術を受ける必要はありません。しかし、痛みのせいで日常生活に支障が出ていれば手術を検討して良いと思います。手術が必要と言われても、手術が当然怖いしできれば避けたい、と⾔う気持ちを私自身理解できます。しかし、痛みに対して何もしなければその状態が変わることはありません。今の状態を何とかしたいけれど手術を受けることを迷っているのなら、手術を受けることでどのくらいご自身の生活が変わるのか医師に確認したほうが良いと思います。お困りのことがあればお気軽に専門医にご相談ください。
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