専門医インタビュー
人工肩関節置換術を受けた後に痛みや動かしづらさがある場合、腱板断裂や人工関節の緩みが生じている場合があります。早期に原因を特定し治療を進めるためにも、手術後の定期健診がとても重要です。慶應義塾大学病院の松村昇先生に、症状の原因と再置換術で選択されることがあるリバース型人工肩関節置換術についてうかがいました。
腱板断裂
変形性肩関節症や骨折などにより人工関節の手術を受けた方がもう一度人工関節の手術を受けることがあります。この2回目の手術のことを再置換術といいます。再置換術を検討する理由はさまざまありますが、中でも多いのが腱板断裂と人工関節の緩みです。
腱板は肩関節の周りにある筋肉で、腕をあげるのにとても重要な役割を担っています。この腱板が年齢とともに変性してきたり、骨折などで衝撃が加わったりすると腱板が断裂することがあります。
人工関節の緩みにはいくつか原因が考えられます。例えば、自分の骨が加齢によって薄くなる、人工関節が入っていることで周りの骨が削られる、人工関節周辺の細菌感染によって骨の一部が溶けることなどが挙げられ、これらが組み合わさっていることもあります。いずれの場合も人工関節と骨の間にすき間ができることで緩みが⽣じます。
腱板断裂や人工関節の緩みがあると肩の痛みや動かしづらさを生じ、症状が悪化してくると腕を思うようにあげられなくなることもあります。症状が軽い場合は、日常生活動作の指導により改善することも少なくありません。しかし、症状がひどく日常生活に支障を来たしている場合には、次の治療として手術を考えていく必要があります。
人工肩骨頭置換術や人工肩関節全置換術に使われている人工関節は、腱板断裂に対する機能回復を期待することができません。そのため、腱板断裂による症状を改善したい場合は、再置換術が必要になることがあります。また、人工関節の緩みについても削れてしまった骨は元に戻らないため、今の骨に合ったサイズの人工関節を再置換する必要があります。
「手術をして肩の調子が良かったのに、最近悪くなってきな」と思ったら、早めに相談するようにしましょう。具体的には日常生活でもともとできていた動きができなくなったり、痛みが出てきたりした時です。患者さんの状況をより分かっているという意味では、初めの相談はできれば手術を受けた執刀医が良いと思います。それがむずかしい場合は、お近くの整形外科を受診しても良いでしょう。
また、手術を受けた方にお伝えしたいのが定期健診の大切さです。調子が良かったとしても、定期検診を受けることをおすすめします。なぜなら、本人は気づいていなくてもレントゲンなどの検査をすると、肩の状態が悪くなっている場合があるからです。定期検診を忘れてしまうという方は、例えば手術の日や自分の誕生日などの記念日を「検診日」と決めてしまうことで、検診を忘れずに受けられるという方法もあるかと思います。
再置換術のメリットとしては、痛みや動かしづらさの改善を期待できることが挙げられます。それまでできていなかった腕や手を使った動作ができるようになることで、生活の質が上がる可能性があります。一方、再置換術によるリスクがゼロではありません。2回目の手術は1回目の手術と比べると、合併症のリスクが高くなる傾向があります。また、骨や靭帯、筋肉も初回の手術時のダメージが残っていたり、加齢などによって状態が悪くなっていたりする可能性があります。持病がある場合は、手術の麻酔に耐えられるかどうかも重要になってきます。こうしたリスクを総合的に判断して手術を受けられるかどうか検討していきます。⼀方で、最近では再置換術のために「リバース型人工肩関節置換術」といった新たな方法も登場してきました。
手術には必ずメリットとデメリットがあり、患者さんが今どのような症状をお持ちで、将来どういう生活を望まれているのかなどによって、それらの感じ方が大きく違ってくると思います。医師から説明をよく受けた後、家族とも相談したうえで手術をするかどうか決定するようにしましょう。
変形性肩関節症や⾻折などにより人工関節の手術を受けた後、腱板断裂や変形性肩関節症が併存し、従来の手術方法では肩を元の状態に戻すことが難しい場合に行われることがあります。リバース型人工肩関節置換術が登場する前までは、1回目の方法と同じタイプの人工関節を使って再置換術をすることが多かったのですが、それでは動きの改善が難しいという課題がありました。リバース型人工肩関節置換術では従来の人工関節とは異なるデザインにより、動きの改善が期待できるだけでなく、腱板や筋肉、骨に問題がある場合でも対応することができます。
リバース型人工肩関節置換術は原則65歳以上で腱板断裂があり、腕があがらないといった適応条件があります。また、手術を行う医師も資格が必要なため受けられる病院には限りがあります。さらに、従来の手術方法と比べると一部の動作に制限がかかります。それでもご高齢の患者さんの日常生活において、ほぼ問題なく動作を行うことが期待できます。
従来型の人工肩関節
リバース型人工肩関節
手術翌日からは歩くことができ食事も可能です。リハビリ内容は主治医や理学療法士の指導のもと、肩周りの筋肉を柔らかくし、リラックスさせながら可動域(動かせる範囲)を広げていく練習を行います。約2週間リハビリを続け、自宅でもリハビリが可能と判断されたタイミングで退院となります。お風呂は手術をして2週間後、患部が感染していないことを確認できれば湯船に浸かることが可能です。
人工肩関節置換術はリハビリ次第でその後の経過が変わってくるといわれています。そのため、退院後もリハビリを続けることが重要です。ただし、人工関節やその周りを傷めてしまう可能性があるので、やり過ぎには注意しましょう。
例えば髪を洗う、荷物を持つ、水泳を再開したいなどの目標を設定して、少しずつリハビリを進めていくことが多いです。
手をつく動作や重い物を持つ動作は、
肩に負担がかかりやすくなります
退院後の3ヶ月間がとても大切で、この期間に問題が起きなければ順調に経過をたどる可能性が高いとされています。そのためにも最初の3ヶ月間は装具をつけて生活してもらうことが多いです。
特に気をつけていただきたいのは、手をつかないことと重い物を持たないことです。これらの動作は調子が良いとついやってしまいがちなのですが、回復に影響を与えてしまいますので十分に気をつけてください。また、肩に負担がかかるため杖や歩行器の使用もできるだけ控えることをおすすめします。さらに、シャツの後ろ部分を直すような「手を後ろに回す動作」は、人工関節が脱臼するリスクを高めてしまうので注意しましょう。
痛みや動かしづらさがあり、これまでと様子が違うという感覚があれば、一人で悩まずに整形外科に相談してください。手術をして調子が良くても、自分の体に人工物が入っているということを心に留めておいていただき、定期健診で人工関節に問題がないか診てもらうようにしましょう。
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