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専門医インタビュー

痛みがなくても「膝が崩れる現象」は放置せずに受診を。見落とされるリスクもある前十字靭帯(ACL)断裂とは?

宮崎県

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専門医:日本専門医機構整形外科専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター
専門分野:スポーツ整形

この記事の目次

10歳代~20歳代の若い世代や、中高年でも日常的にスポーツをしている人などが受傷することがある膝の「前十字靭帯(ACL)断裂」。発症すると痛みだけでなく膝がカクカクする、ガクッとなるといった「膝崩れ」が起きるのが特徴です。放置しておくと日常生活に支障が出て、変形性膝関節症の発症に繋がることもあります。宮崎大学医学部 整形外科 准教授の田島卓也先生にACL断裂の詳細をお伺いしました。

膝の前十字靭帯(ACL)とはどのような組織ですか?

膝を構成している太もも側の大腿骨(だいたいこつ)とすね側の脛骨(けいこつ)を結びつけている強靭な結合組織です。Anterior Cruciate Ligamentを略してACLとも呼ばれます。長さは約3cm、幅は約1.3cmで2つの線維からできています。正常なACLは捻れのある形状をしていて、筋肉とは違い伸び縮みしないのが特徴です。膝関節にはACL以外にも後十字靭帯(PCL)や側副靭帯があり、それらが強い力で骨を支えることで膝の安定性が維持されます。

膝の構成

ACL断裂にはどのような種類がありますか?

次のように3つの種類があり、特にスポーツに親しまれている方には性別・年齢を問わず受傷のリスクがあります。
1つ目は「接触型損傷」です。スポーツなどで人とぶつかって膝を捻ったときに起こります。柔道やレスリングといったコンタクトスポーツによるものがほとんどです。
2つ目は「非接触型損傷」で、走っていて急に方向を変えたとき・ジャンプして着地したときなどに起こります。スポーツでは、バスケットボールやサッカーのプレイ中に起こりやすいとされています。
3つ目は「介達型損傷」で、外部の力に引っ張られて断裂してしまう状態です。スキーで板に足を取られる場面をイメージしていただければわかりやすいでしょう。

接触型損傷と非接触型損傷

ACL断裂の症状にはどのようなものがありますか?

圧倒的に多いのは「非接触型損傷」で、日常生活でも起こり得ます。その瞬間に「バチッ」「ブツッ」などの音がしたという人もいます。最初は痛みを感じ、関節内に⾎が溜まることもあるものの、時間が経つと痛みが治まることも多々あります。しかし、しばらくすると膝が不安定になり、日々の動きの中で膝がガクッとなってしまう「膝崩れ」が起こるようになります。ガクガクするのはACLが膝を支持できなくなって、骨がずれたり戻ったり(亜脱臼と整復)を繰り返しているためです。放置していると二次的に膝関節の軟骨や半月板が削れていき、「変形性膝関節症」へと進んでしまうことがあります。

受診のタイミングについて教えてください

膝を捻ってしまった場合、痛みが無くても腫れや違和感、膝が崩れる現象があれば、早期に受診することをおすすめします。ただし、靭帯はレントゲン画像には映らないため、検査をしても「骨に異常はない」と見逃されてしまうケースもあります。受診後も症状が治まらなければ、MRI 検査が受けられる医療機関で再度確認してもらいましょう。

ACL断裂の治療方法にはどのようなものがありますか?

保存療法には、サポーターの装着やリハビリ、足の使い方へのアドバイスなどがあります。ただし、ACLが自然に再生して繋がることはないことから、若い方・中高年でも活動性の高い方・頻繁な膝崩れなど日常生活に支障が出ている方は、手術を検討するのが基本となっています。
しかし、受傷するのは若い世代の方が多く、手術・入院・リハビリの期間と、クラブ活動での大切な試合や受験、就職活動などが重なってしまうケースもあります。そのような場合は患者さんとご家族、指導者、主治医でよく話し合い、手術のタイミングやリハビリのゴールを決めていきます。

ACL断裂の手術方法について教えてください

リハビリ

ACL再建術の一例

「ACL再建術(前⼗字靭帯再建術)」といって、損傷した部分に代わる新しい靭帯を移植する方法があります。患者さんご自身の体の一部を用いる方法が主流で、多く行われているのは「ハムストリングス」と呼ばれる太腿の裏の筋肉群(半腱様筋、薄筋腱など)や膝の前側にある「膝蓋腱(しつがいけん)」から組織の⼀部を採取して⾏う⽅法です。また、太腿の「四頭筋腱」を用いるケースも増えてきました。その他にも、「人工靭帯を移植する」「(海外では)他人から採取した組織を使う」という再建術がありますが、前者はまだ良好な成績が得られていない、後者は法の問題もあり⽇本では実施することがむずかしいのが現状です。
再建術では2本を移植する、または1本の太いものを入れるなど、執刀医の治療⽅針だけでなく断裂したACLの性状や患者さんの希望によってさまざまな方法が行われます。

ACL再建術後のリハビリについて教えてください

日本整形外科学会の前十字靭帯(ACL)損傷診療ガイドライン(2019年)では、「再建した靭帯の成熟は⼿術後6カ⽉では不十分」とされていて、「時間をかけるほどよい」ということが分かっています。約8~9カ月にわたって成熟を待ちながら、膝の能力を再獲得していくのが基本です。一般的には⼿術をして4~5週間程度で全体重をかけた動作を⾏います。手術をして最初の3カ月は曲げ伸ばしや歩⾏、筋⼒トレーニング、次の3カ月にジョギングや軽いランニング、次の2~3カ月にジャンプや方向転換などスポーツにも通じる動きを目指していきます。
プロスポーツ選手が復帰を遂げている例もあるように、活動性が高い人でも膝の能力を取り戻せることが多くあります。しかし一方で、手術後に再断裂してしまう人もいます。再建したACLが馴染んでいない時期に過度な動きをしてしまったり、最初に断裂したときと同じような足の使い方を続けていたりすることが原因と考えられます。
リハビリの時にご自身の膝としっかり向き合い、適切な使い方を心掛けていくことが大切です。

現在、膝の痛みに悩んでいる方へメッセージをお願いします

ACL断裂は受傷してしばらくすると痛みが治まることがあり、放置している人も少なくありません。また一度検査をしてもらってもレントゲン画像では異常なしと診断され、ACL断裂が見落とされていることもあります。ACL断裂はそのままにしていると、半月板や軟骨など周りの組織の損傷に繋がることがあります。膝の痛みや膝崩れなど気になる症状が続いている人は、早期に受診し検査を受けるようにしましょう。


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