専門医インタビュー
宮城県
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四十代、五十代になると、肩の痛みで腕が上がりにくいという症状を抱える方が増えてきます。加齢とともに気になる肩の痛みの原因や治療方法について、関節外科スポーツクリニック石巻の八田卓久先生に聞きました。
腱板断裂
40歳代以後になって感じる肩の痛みは四十肩、五十肩とひとくくりにされがちですが、さまざまな原因があります。関節の中の関節包という柔らかい組織が加齢などの理由により傷んで硬くなってしまう状態を「肩関節周囲炎」または「凍結肩」と呼んでおり、これがいわゆる四十肩、五十肩です。
一方、60歳代以後の方で多いのが「腱板断裂」です。肩関節は、ボールのような形の上腕骨頭(じょうわんこっとう)と受け皿のような形の肩甲骨関節窩(けんこうこつかんせつか)の組み合わせで動く仕組みとなっていて受け皿側が比較的小さくなっています。そのため広い範囲で動かすことができる反面、不安定で脱臼しやすい関節です。しかしそう簡単に脱臼しないのは、肩関節の周りが腱板という筋肉で覆われ肩を安定させているからです。その腱板が加齢や使い過ぎで傷んでしまうのが腱板断裂です。ある調査では、60歳代では6人に1人、70歳代では4人に1人、80歳代では3人に1人に腱板断裂があるといわれています。中高年の場合、加齢とともに腱板がゆっくりと断裂を起こし、日常生活の何気ない動作で急に痛みを生じることが多くあります。
腱板断裂を放置しておくと軟骨部分がすり減って変形を来す「変形性肩関節症」という状態になることもあります。
「肩が痛くて夜眠れない」「朝起きた時から肩が痛い」「じっとしていても肩が痛い」のように、常に痛みを意識する状態であれば、できるだけ早く整形外科に相談されることをお勧めします。四十肩、五十肩は時間が経てば治ると聞いたことがあるかもしれませんが、痛みが治まったとしても肩が動かしにくいなどの症状が残るケースもあります。また腱板断裂の場合、そのままにしていると断裂部分が広がってしまうこともあります。肩の病気は進行性のあるものも多く、悪化する前に整形外科による適切な診断を受け、治療を開始することが大切です。
診察では、まず症状を聞いて傷んでいるのが腱板なのか、関節包なのか、軟骨なのか確認し、それに応じてレントゲンやCT、超音波、МRI検査を行います。
治療には保存療法と手術療法があります。保存療法には炎症を抑えるための飲み薬や湿布を使った方法が代表的です。腱板断裂の場合は、肩甲骨周りの筋肉をほぐして正しく使えるようにする運動も行います。また患部の炎症を鎮める目的でお薬を注射する方法も有効です。最近では、エコー(超音波診断装置)を使って痛みの原因となる部分を特定し、そこにピンポイントで注射ができる方法も登場してきています。
これらの保存療法を3~6か月行っても回復の傾向がみられない場合は手術が選択肢となります。中でも常に腕をさすったり腕の置き場を気にしたりと腕に意識が向く方は、日常生活の中で大きく支障が出ている可能性があり、手術を考えるタイミングの一つといえると思います。
腱板縫合
手術は凍結肩、腱板断裂ともに内視鏡を使った手術が一般的です。内視鏡を使いながら硬くなった組織を取り除いてきれいにする手術や、切れた腱板を骨に縫い合わせる手術を行います。内視鏡を使った手術は、従来の方法と比べて傷口が小さく短時間で終了します。また、筋肉を切開する侵襲も小さいことから体への負担が少ないというのが患者さんにとってはメリットです。ただし腱板断裂で断裂部分が広範囲に及ぶ場合などには内視鏡を使った手術が適応とならないこともあります。
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