専門医インタビュー
愛知県
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「股関節に悩みを抱えているが、ついつい億劫で、医師に相談せずにそのままにしがち」という方は結構多くいるのではないでしょうか。しかし、我慢して様子を見ているうちに、いつのまにか重症化していることも少なくありません。健康長寿で豊かな生活を送るためにも、早めの受診を心がけ、前向きに治療に取り組んでいくことが大切です。股関節の痛みの原因や放っておくことによる重症化の危険性、また傷口が小さく筋肉を切らない人工股関節置換術などについて、医療法人 慈和会 吉田整形外科病院 豊田人工関節・股関節疾患センター長の山口仁先生にお話を伺いました。
臼蓋形成不全
変形性股関節症
我慢せずにもっと早い段階で受診してもらえれば、「負担やリスクの少ない、楽な治療方法をご提案できたのに」と思うことがよくありますね。股関節の痛みの原因となる主な疾患には、「変形性股関節症」、「大腿骨頭壊死症」、「一過性大腿骨頭萎縮症」などがありますが、女性の痛みの原因として圧倒的に多いのは、「変形性股関節症」です。欧米では、関節が変形する原因がはっきりとしていない「一次性」の変形性股関節症が多いのですが、日本の場合は、幼児期の「先天性股関節脱臼」や生まれつき骨盤側のお椀型の骨(臼)の成長が上手くいかない「臼蓋形成不全」などが背景にあり、それが進行して発症する「二次性」の変形性股関節症がほとんどです。日本人に「先天性股関節脱臼」や「臼蓋形成不全」が多いのは、昔のオムツの形に原因があるのではないかといわれています。足を伸ばした状態できつく固定してしまうと、股関節の臼蓋の形成が妨げられてしまうのです。また、昔は無理な形に股関節を固定して整復を強制しギプス固定したことで、大腿骨頭の阻血壊死を引き起こした面もあります。しかし最近では、小児整形外科医によるオムツ指導、治療もギプスからベルトによる固定(リ-メンビューゲル)などに変わるなどの啓蒙活動が進んできたので、今後はこれらの疾患も減少していくものと思われます。
「変形性股関節症」の遺伝的要因はまだ解明されていませんが、家族歴が影響しているのは確かです。母親が以前、もしくは現在、股関節に疾患をかかえている場合は、自覚症状がなくても、一度医療機関でチェックを受けることをおすすめします。女性の場合、骨端線が閉じて大人の骨になるのが15~16歳、場合によっては22歳ごろまで骨端線が残っていることがあります。ですので、できれば15~16歳以前、遅くても20代前半までに、臼蓋形成不全の傾向がないか、レントゲンを撮って検査してもらいましょう。異常がなければ安心ですし、たとえ異常が認められても、症状がない、あるいはごく軽い場合には、「激しいスポーツは控える」、「股関節に負担をかけるので太らない」といった日常生活の留意点を守ることで、将来的に変形が進行するのをかなり遅らせることができます。症状が進んでからでは改善のためにできることも限られますので、早めの受診を心がけてください。
受診のきっかけで一番多いのは、やはり痛みです。あとは、「左右の足の長さが違う」、「歩くときに頭が揺れて、それを人に指摘される」などがあげられます。患者さんにお話を聞くと、「中学、高校時代から体育の授業のあとは痛かった。でも、しばらく休むと治ってしまうので、あまり気にしていなかった」という人が多く、今となって振り返れば、何らかの心当たりはあるものの、その時は受診に至らなかったというケースが大半のようです。
重度の変形性股関節症。
骨と骨がぶつかり、骨頭がつぶれて
いるのが分かります。
残念ながらありますね。ひどいケースでは、車椅子の状態になって初めて受診する方もいらっしゃいます。多くの場合、動くと痛むので歩かなくなってしまいますが、人間の身体は動かさないとアッという間に筋力が衰えてしまいます。衰えた筋力は、手術では元に戻せません。関節を手術する場合でも、筋力があるのとないのとでは、術後の回復に圧倒的な差がつきます。車椅子状態まで行ってしまうと、寝たきりに近づく可能性も出てきますし、褥瘡の問題など、家族の介護負担も視野に入れなければなりません。このような状況を引き起こさないためにも、何よりも早めの受診が大切です。医師の指導の下であれば、鎮痛剤やサプリメントの使用に問題はありませんが、過度な期待を持つのは考え物です。気になる症状や痛みがあれば我慢せず、まずは整形外科を受診しましょう。日本は世界に冠たる長寿国ですが、健康長寿でなければあまり意味がありません。適切な治療タイミングを逃さないようにしたいものです。
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