専門医インタビュー
強い膝の痛みがあるせいで、歩くのも出かけるのもおっくうになり、年々アクティブに動けなくなっていく──。そんな悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。膝の代表的な疾患として、加齢とともに膝の軟骨がすり減って骨が変形してしまう「変形性膝関節症」があります。具体的な治療法について、東住吉森本病院の上野健太郎先生に伺いました。
膝の痛みの原因はさまざまですが、最も多いのは「変形性膝関節症」です。これは膝の軟骨がすり減ってその下の骨に負担がかかり、痛みや変形が生じた状態です。男女別に見ると、女性の患者数が多い疾患です。60代ぐらいから「正座ができなくなってきた」「階段の下りが辛い」「O脚を友人に指摘された」といったきっかけで受診される患者さんが多くおられます。「肥満」も膝に負担をかける大きな原因となります。減量していただきたいのですが、膝が痛いと運動しにくく運動不足になり、そうするとさらに太ってしまい、ますます膝に負担をかけて痛みが増す……という悪循環に陥りがちです。
ヒアルロン酸の関節注射
膝の痛みを訴えている方には、症状をうかがい膝の状態を確認するだけでなく、レントゲンで膝関節の骨の状態を確認します。レントゲン検査で異常が見つからない場合は、半月板や靭帯など他の部分が痛みの原因となっていることが考えられるので、MRI検査を行い痛みの原因を探します。変形性膝関節症と診断されれば、痛みに応じて痛み止めを使用したり、ヒアルロン酸の関節注射を行ったりします。合わせて、肥満傾向のある方には減量を指導し、運動療法としては太ももの筋力訓練を勧めています。こうしたいわゆる「保存療法」で症状が改善し、通常の生活が可能になる方も多くおられます。しかし、すり減った軟骨は完全には元通りにならないため、痛くなったり良くなったりを繰り返しつつ、長期的には徐々に進行していく方も多くおられます。レントゲンで変形の程度が強く、3か月ぐらい保存療法を続けても痛みが軽減しない場合は、次の段階の選択肢の一つとして手術の提案をしています。
人工関節の手術は、痛みが軽減できるだけでなく、O脚変形が改善し、歩容や整容面での向上が期待できます。ただし、一刻を争う病気ではないので、医師から「ぜひ手術をしましょう」と強く勧めることはなく、無理矢理に手術を受ける必要はありません。また、手術はいつまでに受けないといけないという決まりはなく、手術を受けることができる状態であれば、90代の方でも可能です。しかし、10年20年と手術を受けることを先延ばすうちに、体力の衰えや他の病気が出てくると手術自体やその後のリハビリが難しくなる可能性もあります。
変形の程度が強いからといって必ずしも手術を受ける必要はなく、ご本人が膝の痛みでどれだけ困っているかによって考えたほうが良い手術だと思います。また、旅行に行きたい、自由に買い物に行きたい、自転車に乗りたい、登山がしたいなど、手術後の目標を立てることは術後リハビリのモチベーション維持にも大切です。もしも、身近に手術を経験した方がいるような場合は、その経験談を参考にするのも良いと思います。いずれにしても、手術のメリットやリスクをきちんと理解し納得した上で、手術を受けるかどうかを決めるようにしていただきたいと思います。
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