専門医インタビュー
静岡県
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人工関節置換術は1960年代に治療法が確立されて以来、国内外でさまざまな関節で人工関節の手術が行われています。股関節に限れば、日本国内では6万件以上もの人工関節の手術が行われ、一般的な手術となってきました。静岡厚生病院 天野 貴文先生に人工股関節置換術だけでなく人工関節について詳しく伺いました。
人工股関節の一例
現在では、膝や股関節などの関節が、何らかの原因で変形してしまう変形性関節症などの治療方法のひとつに人工関節置換術が選択される場合があります。人工関節置換術というのは文字通り関節を人工物に置き換えるという手術です。関節を人工物に置き換えるというアイデアは20世紀初めころから様々な先生がチャレンジしてきましたがなかなか良好な治療成績にはつながらなかったそうです。実際に治療法として人工関節置換術が確立したのは1960年代にチャンレー先生が発表された人工股関節が完成した以降といわれていますから、かれこれ60年くらいの歴史ということになります。イギリスでは過去200年間に行われた医療分野での革新的な発明・発見というテーマの切手の図柄の一つが人工股関節になっているほど、人工関節の発明によって今までの治療方針が一変しました。
人工膝関節の一例
人工関節の構造を理解するためにはもともとの私たちの身体の構造を確認しておく必要があります。関節というのは「骨と骨をつなげているしくみ」のことで骨と骨の間には関節軟骨が存在しています。関節軟骨は表面がツルツルしていてクッション性があり、なめらかに動きやすくしたり衝撃をやわらげたりする働きをしています。それがさまざまな理由で少しずつ傷んでくると動かしにくくなったり痛みが生じやすくなったりします。人工関節置換術というのはこの傷んでいる関節を切り取ったり加工したりした上で、人工物で置き換える手術ということになります。人工関節の素材として現在よく使用されるのが金属(具体的にはコバルトクロム合金、チタン合金、ステンレス鋼など)やポリエチレンというプラスチック素材の一種などになります。一般的に関節をつくるそれぞれの骨に金属を固定して、関節軟骨のかわりにポリエチレンをはさみこむ形で人工関節はつくられています。人工膝関節の場合、大腿骨部と脛骨部が金属、そして金属同士の間の部分がポリエチレンでできています。また金属やポリエチレンのかわりにセラミックという材料を使うこともあります。人工股関節では、ソケットやステム、ボール部分が金属、そしてライナーがポリエチレンでできています。
人工関節には金属が使用されているため金属探知機に反応するのではという心配をされる方がいます。実際にどの程度探知機に人工関節が反応するか調べてみるといくつか文献がありました。アメリカからの報告では人工股関節置換術を行った143人の方に対して聞き取り調査をしたところ120人(84%)がセキュリティチェックに引っかかり、そのうち25人に身体検査を行う必要があったと報告しています。また日本からの報告では飛行機を使用する際に人工関節が挿入されている671人のうち346人が金属探知機に反応したとのことです。文献によると使用されている金属の種類はあまり関係がなく、国内線よりも国際線の方が感度が高く、片側を手術している人よりも両側を手術している人の方が該当しやすいとのことです。どうやら頻度は比較的高いと認識しておいたほうがよさそうです。
AJ, et al. Detection of total hip Prostheses at Airport Security Checkpoints: How Has Heightened Security Affected Patients?
J Bone Joint Surg (Am) 94 (7): e44, 2012
Kimura A, et al. Detection of total hip prostheses at airport security checkpoints. J Orthop Sci 2019 (ahead of print)
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