専門医インタビュー
埼玉県
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現在、日本では変形性膝関節症の潜在患者は50歳以上で1000万人といわれています。一方で、厚生労働省の統計によると、関節疾患や骨折が原因で寝たきりになる高齢者は、脳卒中や心疾患と同様に多いと判明しています。膝の痛みを抱えている多くの人が、そのまま放置しているか、あるいは自己流の方法でごまかしていますが、適切な治療を受けない限り、膝の動きは徐々に制限され、悪化すると介護が必要になる場合もあるということです。「健康寿命を延ばすためにも、痛みは我慢しないで、専門医の診断を受けてきちんと治療してください」と語る、埼玉医科大学 整形外科・脊椎外科の泉亮良先生にお話を伺いました。
正常な膝のX線骨同士の間に隙間があります
変形性膝関節症のX線軟骨がすり減り、骨がぶつかっている
もっとも多いのは、膝のクッションである軟骨がすり減った「変形性膝関節症」でしょう。他には、半月板損傷や大腿骨の骨壊死、関節リウマチなどがあります。変形性膝関節症は、加齢や体重の負荷により次第に軟骨がすり減ってくるものです。レントゲンを撮る時には、立って体重をかけた状態で撮影するのが診断のポイントの一つです。そうすることで、大腿骨と脛骨(スネの骨)の隙間がすり減っていることが正確に分かります。通常は6ミリ以上ある隙間が、進行に伴い無くなって来て、骨同士がくっついた状態となっていると、かなり悪い状態と言えます。また、変形関節症以外の半月版損傷や骨壊死が疑われる場合にはMRIという精密検査が正しい診断の役に立ちます。
手術はあくまでも最終手段ですので、まずは保存的治療が中心となります。病院で行えるのは主に痛み止めの処方やヒアルロン酸の膝への注射ですが、それ以外の自己管理も大切です。膝の悪い人では、体重の重い人が多く、ダイエットは重要です。また膝関節を守り支えている筋肉がしっかり機能していれば、関節の負担を減らすことができるため、太ももの筋肉を鍛えるような運動も重要です。骨や関節の不具合は、医師が治すことができますが、筋力を鍛えるには患者さんの
努力がどうしても必要になります。単純に歩くだけでは筋力は強くなりませんので、足上げ運動やスクワットなど、どんなトレーニングをすればいいのか、励ましながら指導をしています。このような保存療法を続けても膝の痛みが治まらず、レントゲン上でも明らかに軟骨が消失していて、関節の変形が進んでいる場合は、人工膝関節置換術の適応となってきます。
「歩くのが辛くて日常生活も困る」のはもちろん、「膝が痛くなるので、友人と買い物や旅行に行くのは遠慮してしまう」など、せっかくの人生が楽しめなくなってきたら手術を考えて良い時期です。
大腿四頭筋のトレーニング
人工膝関節置換術は、「歯の治療」をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。虫歯は薬では治りません。悪い部分を削った後に、人工の歯を被せるのが主な虫歯の治療ですが、人工膝関節置換術も同様に、損傷した膝関節の骨の表面を削り、人工的な関節を上下に被せて置き替えます。以前は、人工膝関節置換術の対象者は65歳以上といわれていましたが、今は人工関節の長期耐用性が認められていますので、高齢になるまで待つ必要はなくなりました。基本的に、人工関節は一生モノです。必要な人にあった時期に手術を行うのが適切だと考えています。
なお、高齢者の中には、人工膝関節置換術に対して「手術をすると歩けなくなる」という誤ったイメージを抱いている人がいます。しかし実際は、以前は歩くこともままならなかったのに、人工関節のおかげで歩くのが楽しくなった、旅行や簡単なスポーツもできるようなった、と喜んでいる人が、たくさんいらっしゃいます。まずは怖がらずに、医師の説明を納得がいくまで聞いてみてください。
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