専門医インタビュー
中高年以降の股関節の痛みの原因で多いのは変形性股関節症です。股関節とともに、脊椎疾患の治療にも取り組む竹田綜合病院の本田先生と山田先生に、変形性股関節症の原因と治療法、人工股関節置換術や手術後の生活上の注意点について伺いました。
変形性股関節症のCT(正面と側面)
本田 股関節は胴体(骨盤)と脚(大腿骨=太ももの骨)をつなぎ、体重を支える重要な関節です。股関節は、大腿骨の骨頭が、骨盤のお椀のようにくぼんだ
正常 寛骨臼形成不全
山田 変形性股関節症は、日本人の場合、何らかの原因があって発症する二次性が多いと言われています。その原因として多いのは、寛骨臼形成不全です。寛骨臼形成不全は、骨盤の発育不良によって寛骨臼(臼蓋)が浅く、股関節に偏って負荷がかかり、軟骨のすり減りや変形が起こると言われています。それ以外に、大腿骨頭壊死、股関節部の骨折等の外傷、ペルテス病等の小児期の股関節疾患、先端肥大症等の内分泌疾患、他、いろいろな原因で変形性股関節症が起こることがあります。
本田 一方で、高齢者の場合は腰が曲がることによって発症している人も少なくありません。特に、前かがみの姿勢を続けていたり、骨粗しょう症があったりすると、年をとるにつれ、腰が後ろに曲がってきます。すると、骨盤が後ろのほうに傾くため、股関節への体重のかかり方が偏り、股関節の軟骨がすり減ってくることがあります。
脊椎の治療後のレントゲン
本田 脊椎というのは、頭蓋骨の下の頚椎という首の骨から尾てい骨までの、いわゆる背骨のことで、神経を守る重要な役割を果たしています。脊椎に「すべり症」や「狭窄症」といった神経を傷害する疾患を発症すると、手足のまひやしびれ、歩けなくなるといった症状があらわれることがあります。
特に、もともと臼蓋形成不全があり、若い頃にはそれほど痛みがなかったけれども、加齢とともに腰が曲がってきたことで変形性股関節症が急速に進んでしまったという人も結構多いのです。
股関節も脊椎も両方悪い場合は、神経障害が起きていたら脊椎の治療を優先します。あるいは、人の背骨というのはゆるやかなカーブを描いていますが、背骨の疾患によって大きく曲がると歩行に支障が出ることがあります。そのような場合も脊椎の治療を優先して行います。神経障害などの緊急性がない場合や、背骨が曲がっているなどの問題があってもあまり生活に支障がない場合は、股関節の治療だけ行うこともあります。
水中ウォーキング
本田 変形性股関節症が初期段階であれば、筋力訓練を中心とした運動療法を行います。特に、股関節周りの筋肉を鍛えることが大切で、それによって股関節の安定性を高め、アンバランスになっている荷重のかかり方を改善します。さらに、肥満の人は体重を減らし、生活スタイルを洋式に変えるなどで、股関節への過度な負担を軽減することが大切です。
山田 筋力訓練では、横向きに寝て足を上に持ち上げるときに使う外転筋群(中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、大殿筋など)を重点的に鍛えるのが効果的です。ただし、股関節に過度の負担がかかる内容だと、かえって状態を悪化させます。プールでの水中ウォーキングのように、股関節にあまり体重をかけずに筋力が鍛えられるような運動がいいでしょう。あとは、例えば農作業で深くしゃがみ込む動作をしている人や、重量物の持ち運びをしている人は、痛みがあるときは、そのような動作を控えてもらい、椅子や台車の使用などの工夫をすることで痛みが改善することがあります。
股関節の痛みが続くときは、整形外科を受診して、レントゲン検査などで自分の股関節の状態を把握しておくことが大切です。痛みや機能障害の程度により、筋力訓練の他に、杖の使用、鎮痛剤の服用を組み合わせて行い、それでも痛みが改善せず、生活に支障が出るようなら、次は手術という選択肢があります。
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