専門医インタビュー
岡山県
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超高齢社会となり、加齢による軟骨のすり減りが主な原因といわれる変形性膝関節症に悩む人も増加しているといいます。しかし、手術に抵抗のある人がまだまだ多いようです。「治療の基本はまずは保存療法から。それだけで症状が改善することも十分に可能です。たとえ症状が進行して手術の検討が必要になった場合でも、人工膝関節全置換術は虫歯治療のように痛みの原因となる部分を取り除き、人工物に置き換える手術です。むやみに怖がる必要はありませんよ。」とアドバイスする林正典先生にお話をうかがいました。
膝関節の構造
高齢者の場合は、変形性膝関節症と大腿骨顆部骨壊死が多いですね。これに関節リウマチを加えると、痛みの原因の90%以上を占めるといわれています。それらの疾患の中でも一番多いのは、変形性膝関節症です。
膝関節を形成する太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)の間には、クッションのような役わりを果たしている軟骨という組織があります。変形性膝関節症は、その軟骨が加齢とともにすり減ることで骨同士があたり、痛みを生じる病気です。症状の進行状態によって初期・中期・進行期・末期に分類されます。高齢化に伴い男性の人も増えていますが、現在でも約9:1と女性に多く見られる疾患で、50歳以降に症状が出てくることが多いようです。
一方、若年者の場合では、骨折も含め、靭帯損傷、半月板損傷、軟骨損傷といった外傷・傷害が主な原因となります。靭帯や半月板、軟骨の損傷は、激しい運動で大きな力が膝に加わった時に起こることが多いのですが、仕事中の階段の踏み外しや落下などで起こるケースも少なくありません。
大腿四頭筋
(太ももの前方の筋肉)
ヒアルロン酸の関節内注射
歩行時痛や階段昇降時の痛みといった、日常生活動作に伴う痛みに悩んで受診される人が多いですね。軟骨がすり減っていることで、骨同士がこすれてしまい、痛みを伴います。治療は、ヒアルロン酸の関節内注射と大腿四頭筋(太ももの前方の筋肉)の訓練が基本ですが、痛みが強い場合には補助的に湿布や消炎鎮痛剤などの保存療法から始めます。
ヒアルロン酸は関節の内部にある関節液や軟骨の成分のひとつで、膝を曲げる際の潤滑油としての働きや衝撃を吸収する働きをしていますが、加齢と共に減少していきます。それを注射で関節内に補充することで、膝の環境を回復させ、症状の改善を図ります。1週間に1度、5回続けて注射をするのが基本的な治療法で、この段階で痛みが治まる人もたくさんおられます。効果のチェックのために1カ月後に来院してもらいますが、また少し痛みが出始めているようであれば、その後も維持療法として1カ月に1回もしくは2カ月に1回、注射を継続することも可能です。
大腿四頭筋訓練では、太ももの筋肉を強化することで、膝の安定性を高めたり、血液の循環を良くして、症状の改善を図ります。
変形性膝関節症のレントゲン
次の段階の治療である、手術療法を検討することになります。膝関節の軟骨がすり減り、レントゲン画像で見ると関節の隙間がない、もしくは隙間が極めて狭く、日常生活に支障をきたすほど痛みがある人には、除痛効果が高く、長期成績の良い「人工膝関節全置換術」が有効な選択肢となるでしょう。
一方で、関節の隙間があるのにもかかわらず、強い痛みを訴える人もいます。加えて、膝が伸びない、ひっかかり感がある、膝を曲げると変な音がするといった症状があれば、半月板の損傷が痛みの原因であることが考えられます。MRI検査を行い、その結果、それが証明されれば、関節鏡視下郭清術(デブリードマン)を行ったり、痛みの原因となっている傷んだ半月板の部分切除などで対応します。保存療法からスタートして必要であれば手術まで、診察を重ねて段階を踏むことで患者さんに納得してもらいながら治療を進めてもらうことを心掛けています。
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