専門医インタビュー
股関節のトラブル……脚のつけ根の痛みや、左右の脚の長さに差が出るなど、悩みを抱えてしまっている人も少なくないようです。今日は、その痛みのメカニズム、よりよい治療法について、神奈川県立足柄上病院の病院長にお話をうかがい、充実した楽しい毎日を送るためのヒントをつかんでいきましょう。
整形外科が扱う病気として、多いのは変形性股関節症ですね。股関節は胴体と脚の骨と骨のつなぎ目です。太ももの骨は丸いボール状に、骨盤側はおわんをひっくり返したようにへこんでいます。そのつなぎ目の骨の表面には、軟骨があって、骨をつるつるうまくすべらせるためのコーティングと考えてください。その軟骨の質が年齢とともに落ちてきます。軟骨は肥満やスポーツ、労働によっても摩耗が進むことがあります。また日本人には大変多いのですが、臼蓋形成不全といって、骨盤側のおわん状のへこみが浅い骨格の人や、先天性股関節脱臼の後遺症で早く傷んでしまう人もいます。
軟骨がすり減ってしまった末期の、骨と骨がこすれ合う痛みはひどく、歩行もかなり不自由で、足を引きずったような、体を揺らすような歩き方になってしまうことも多いですね。脚長差も相当出ます。左右10センチくらい差が出ているような人もいるくらいです。
そうですね。発症年齢などのはっきりとしたデータは少ないですが、一般的に女性に多いのが特徴です。病院に来られる方々は『本当に痛い人』で、そうした60代、70代の方に『いつから痛いのですか?』と聞くと『実は40代くらいから時々痛かった』とか『20代から痛かった』という人がいます。潜在的な患者さんは大変多いのではないかと想像しますね。
痛いと感じたら、専門のドクターに診てもらうのが第一です。その上で、まずは股関節周辺の筋力をつけることが非常に大事です。関節に負担をかけず、筋肉に負荷がかけられるプールでのトレーニングなどが勧められます。室内などで簡単にできるのは、あおむけに寝て膝を伸ばしたまま30センチくらい上げ、5~10秒ほど維持しておろす。無理をしない程度に左右10回ずつセットでやるなどもいいですね。
薬物療法は、一般的に消炎鎮痛剤や外用薬、関節内に痛み止めの注射をすることもあります。こうした薬は症状を抑えることが多少できますが、残念ながら、すり減った軟骨は再生しません。最終的に痛みをとり、脚長差をなくしていくことを目指す場合は、手術を検討する必要もあるでしょう。
初期、あるいは軽い段階の選択肢としては骨切り(寛骨臼蓋回転骨切り術)も挙げられますが、進行してしまった変形性股関節症であれば、人工股関節置換術を考えます。すり減った軟骨や傷んだ骨を取り除いて、金属やポリエチレンなどでできた人工関節に置き換える手術ですね。
まず『あの痛みはなんだったんだろう』と思うくらい痛みが楽になります。そして脚長差のあった脚の長さもそろい、きちんと指導を受けてリハビリをやれば、一見股関節が悪かったというのがわからないくらいきれいな歩行が期待できます。そうなれば美容的観点からも、女性にはうれしいメリットのひとつでしょう。
脱臼と摩耗でしょうか。この手術をすると、3~4パーセントの割合で脱臼するといわれています。そして摩耗。人工関節も、自分の関節と同様に毎日使い、体重の何倍もの力がかかります。摩耗はどうしても避けられず、その結果、ゆるみが生まれてくる場合があります。ですから将来再置換する可能性も考慮した上で、人工股関節置換術を決断する必要もあります。ただ、年々摩耗の少ないものが開発されていて、20年前などに比べればかなり良くなっていますが、定期的に検診を受けることは大切ですね。
明らかに活動的になりますよ。60代後半の女性は数年前に手術しましたが、積極的に仕事に出るようになりました。しゃがむことも多い清掃の仕事をしていますが、はじめて会ったときは車椅子の状態で、ほんの数メートルしか歩けませんでした。痛みをとり、美しく歩く……人工股関節置換術は、人生に潤いを持たせられるきっかけをつくってくれるのではないかと思いますね。
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