専門医インタビュー
北海道
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ひざの痛みがありながら、「手術は怖い。できるだけ避けたい」と耐えている患者さんは多いようです。しかし、痛みを我慢して放っておくと症状は進行してしまいます。そこで、関節疾患治療と人工関節全置換術や部分置換術において豊富な経験をお持ちの浜口先生に、患者さんの症状に適した治療法や手術を行うタイミングについてお話を伺いました。
変形性膝関節症とは、ひざの軟骨がすり減り、痛みが出てくる状態をいいます。ひどくなるとO脚などの変形が進み、歩くたびに激痛に悩まされます。初期の段階では、朝起きて歩き始めたときや椅子から立ち上がる時、またよく歩いた夕方などに痛みやこわばりを感じたり、深くしゃがんだときにひざの裏がきついような重苦しいような違和感があったり、といった症状を覚える方が多いようです。
年齢も大事な診断要素となります。「ひざが痛い」という患者さんがもし30代でスポーツや肉体的な重労働をしている方なら、半月板や靭帯が原因の可能性が高く、高齢者で「ひざが痛い」「腫れている」という場合は、関節リウマチも疑います。 年齢に関係なく、歩きすぎてひざに炎症が起こり、水が溜まるケースもあります。それは目にゴミが入ったら涙が出たり、風邪を引いたら鼻水が出るようなもので、ひざも使いすぎると水を出してクッションの役割を果たそうとしたり、洗い流す作用が生じてひざを守ろうとします。水が溜まるから痛いというわけではないのです。
40代はグレーゾーンです。40代になると、どのような仕事や生活習慣であれ、誰しもひざの軟骨に小さなひび割れが起こります。お餅が乾燥すると、ひび割れて細かいカケラがこぼれ落ちますが、それに似たイメージです。そして加齢とともに関節のすり減りや変性が生じて痛みの原因になる。それが変形性膝関節症です。
O脚の人の方がなりやすいというデータもありますが、まっすぐな脚でもなります。遺伝的にすり減りやすい人もいます。そして女性に多く見られるのも特徴です。
いずれにしても、これまでにないひざの違和感や痛みを覚えて2〜3週間症状が続くなら、整形外科での受診をおすすめします。
軟骨がすり減り始めた初期のひざの違和感や痛みは、1~2カ月で自然に軽快することがあります。正座や長歩きを避け、体重をコントロールして、スポーツや立ち仕事など、ひざの負担を減らしてみてください。 ちなみに、変形性膝関節症は、太りすぎの人がなりやすいというわけではありません。しかし一旦なってしまったら、肥満は悪化を加速させる一因となります。体重が軽いほどひざへの負担は軽減されますから、痛みを感じたら体重コントロールは大切です。 同時に筋肉をつけることも有効です。簡単にできるおすすめの体操があります。 椅子に腰掛けた状態で、ひざを伸ばして床から10cmくらい上げて、太ももの前側にギューッと5秒間、100%の力を入れる。
これを左右10回ずつ。朝昼晩で計30回行い、3カ月間続けてみてください。 ひざの不安定性をコントロールしやすくなると言われており、わたしも初期の段階の症状の軽い患者さんには指導しています。
それで「根本的に」よくはなりませんが、痛みの改善には効果があるようです。痛みがない人も、予防の意味でやってみるのもよいでしょう。(ちなみに靴も、同じ一足を履き続けるのではなく、パンプスやスニーカーなどいろいろな種類を履き分けると、ひざへの負荷が一カ所に集中することなく、痛みの予防になるかもしれません。)それでも軽快しないときは、医師からの痛み止め(消炎鎮痛剤)の飲み薬や湿布、軟骨保護作用のあるヒアルロン酸注射などが効果的なこともあります。しかし残念ながら、それは軟骨のすり減りが元に戻ったわけではなく、「悪いなりになじんでいる」状態かもしれません。ひざをかばっても1カ月以上続く痛みや、一時よくなってもまたすぐに痛みを繰り返す場合は要注意です。2〜3カ月経っても改善が見られないようなら、いずれ手術に至るケースが多いです。
整形外科医に、「変形性膝関節症」と診断され、「減量と太ももの筋力トレーニング」を3カ月行い、「飲み薬や関節注射」をしても「半年以上続く」痛みは、その後も繰り返しながら徐々にひどくなる可能性があります。立ち上がるたび、階段を下りるたび、歩くたびの痛みが出てきたら手術を考慮してもよいでしょう。 「いつか治るだろう……」「手術が怖くて……」と、我慢に我慢を重ねて最後の最後にあきらめて手術を受けるよりは、信頼できる医師の手術によって、楽しい人生をより早く手に入れることができるかもしれません。
①内視鏡で軟骨のカケラをクリーニングする方法。軽い段階では、この手術で十分な場合があります。
②脛骨骨切り術。ひざの関節内側の軟骨のすり減りが進んでいる場合に有効。脛(すね)の骨に切り込みを入れて開き、くさび形の人工骨を入れて金属で補強し、O脚をX脚にしてひざの関節内側の痛みを減らす方法です。回復までに半年ほどかかりますが、重労働に耐えうるひざになるので、まだまだ10年、15年と働こうという60歳未満の人に適しています。
③人工膝関節部分置換術(単顆置換術)。ひざの関節内側の骨のすり減りが進んでいる場合に有効。関節の内側のみ部分的に人工関節に置換します。
④人工膝関節全置換術。痛みやすり減りがひざ全体に及んでいる末期の状態に適した方法です。
人工関節“単顆”置換術とは、関節の一部分を金属の人工関節に置き換える「部分置換」のことで、簡単に言うと、「ひざの内側だけにインプラントをかぶせる」方法です。これを我々はUKAと呼んでいます。人工関節の手術は、歯医者さんが虫歯を削って銀歯や差し歯をいれる方法に似ています。人工膝関節には全体を入れ替える「総入れ歯」と部分的に入れ替える「部分入れ歯」の方法があります。
部分置換は「部分入れ歯」に似ていて、健康な自分のひざを残しながら悪いところだけを取り替えることができます。
昔の部分置換用の人工関節は長持ちせず、あまり普及しませんでした。またひざの変形の進行具合によって、部分置換が適しているのか、全置換が適しているのかの判断は難しく、いまほど明確な診断基準もなかったため、残念ながら、部分置換で期待通りの結果が出ないケースもありました。
しかし医師や人工関節メーカーの努力により、人工関節における医師の教育レベルと人工関節の品質は、ここ10年ほどで著しく向上しています。最新の研究では、部分置換術は患者さんの体の負担が少なく、自然なひざの動きや感覚が残せて、機能性や耐久性でも非常に優れていることが証明され、再び脚光を浴びています。 たとえば全置換の場合、手術後の痛みが3カ月から半年ほど続きますが、部分置換は多くの場合、1カ月にも及びません。
しかし一般的には、ひざの内側だけの手術ができる部分置換を知らない方がまだまだ多いようです。部分置換の手術をして元気になった人が偶然そばにいて、「私もできますか?」と来院するケースがほとんどです。
部分置換ですむ症状でありながら全置換を選択することは、部分入れ歯や差し歯で十分なのに総入れ歯にしようとするのと同じこと。自分の骨を温存できるのにもったいない話です。 部分置換は60代前半から可能ですし、患者さんの9割は15年前後お手入れなしで長持ちすると言われています。メリットの多い部分置換ですが、ひざのすり減りが内側を超えてひざ全体に広がると全置換の手術しかできなくなります。その意味でもひざの痛みを我慢しすぎないで専門医に相談することが重要です。
部分置換の場合、人工関節の金属部分自体は劣化することはほぼありませんが、金属と骨の間がゆるんで合わなくなる場合があります。歯茎がやせて入れ歯がカタカタしてくるようなものです。部分置換の9割の患者さんが15年前後は長持ちするのですが、長寿時代を反映して入れ替えの手術が必要になる患者さんもいらっしゃいます。
その際は、ひざ全体を人工関節に入れ替える全置換での再手術になるでしょう。全置換から全置換の入れ替えは、人工関節を体からはずすのも、再度新しい人工関節を入れるのも大変ですし、患者さんの身体への負担も大きい。しかし部分置換から全置換の入れ替えはそれほど難しくはなく、患者さんの負担も小さくてすみます。その点でも部分置換の手術を最初に行うことに利点があります。
部分置換も全置換も安全かつ非常に効果的な治療法です。私は変形性膝関節症の患者さんを診察するときにはまず「部分置換ができないか?」と考えます。しかし、我慢しすぎてすり減りが進みすぎたひざには部分置換はできません。ひざを支える靭帯は4本ありますが、そのうちの1本でも切れている場合もできません。受診が早いほど、部分置換を受けられる可能性は高くなります。有効で優れた方法があるにもかかわらず、我慢しすぎて選択肢を自ら狭めるのはもったいないことです。
多くの患者さんは手術を「怖い」と思われます。「人工関節の手術をすると歩けなくなる」という先入観を持つ方もいます。しかし実際に手術を受けた患者さんは「こんなことなら早く手術をすればよかった」「我慢していた時間はなんだったのだろう」と、喜ばれる方がほとんどです。 私の患者さんには、手術して半年後、1年後、3年後、5年後、7年後……と経過観察のために来院していただいています。「一生来てくださいね」とお願いしているのですが、みなさん、お会いするたび、いい笑顔をされています。大きな利益をもたらす手術なのだと再確認する瞬間です。
手術には、「人の命を助けるための手術」と「楽しい人生をめざすための手術」があると思いますが、ひざの手術はまさに後者。人生の質を高め、幸せに生きるための手術です。 ひざに違和感や痛みを覚えたら、自分のひざを守り、楽しい人生をめざすためにも、ぜひ早めに整形外科医を利用していただきたいと思います。
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